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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2012 関西

2012年7月26日(水) 於 クリエイターズプラザ

ソフトウェアテストシンポジウム 2012 関西
~テスト技法の温故知新:技法の原点を振り返る~

JaSST関西に行くといつも感じることがある。開始前、朝早くから席が埋まっていく。そこに参加者の意気込みの強さが表れているのだと思う。
今回は「テスト技法の温故知新:技法の原点を振り返る」というテーマのもと、午後には約4時間という長時間かつ濃い内容のワークショップが行われた。シンポジウム全体としては、テスト技法の話に限らず、品質に関すること、要求工学に関すること、テスト設計に関すること等、ソフトウェア技術者として、ソフトウェアテストを行う上で、役立つ情報が盛りだくさんの内容であった。

各セッションの概要と所感

基調講演は飯塚悦功氏。「現代のソフトウェア技術者に贈る言葉」として、時代の変化に対応し持続的に成功するために心がける事や、Professionとなるために必要な事など、ソフトウェア技術者として、そして組織の一員として大切なことを気づかせる内容だった。
「成熟経済社会に生きる」「ホンモノづくりをめざせ」「競争優位要因を明らかにせよ」「ソフトウェアが国力を決める」「プロフェッションとしての自覚を持て」という、5つの"贈る言葉"について語られた。講演の概要を以下に記す。
かつて時代は品質を求めていた。日本は品質を武器に経済成長した。しかし時代が変わり成熟経済となり、情報技術・物流技術が進展し、労働意識も変化した。
時代が変わった時に、どういうところが勝負できるところなのかを意識すべきである。新・品質の時代として、どういう価値を誰に提供しているのか?を考えなおしたほうが良い。そして、組織が存続するために変化に対応する能力を持つ必要がある。変化の様相とその意味を知り、自身のあるべき姿を認識し、自らの特徴を活かしてあるべき姿を描き、必要に応じ革新することで、持続的成功につながる。
持続的成功のために、ホンモノづくりを目指す必要がある。顧客と作り手のどちらの目から見てもホンモノであることを追究するために、ニーズの充足、超一流の技術、そしてまともなプロセスで真摯に取り組むことが求められる。
世の中、必ず競争はある。時代は変わっても成功する組織には「外界に対する鋭敏な感受性」「コアコンピタンスの自覚」「人材・人財」の、3つの共通点がある。特に重要なのがコアコンピタンス(競争優位要因となりうる中核能力)の自覚である。事業において勝負を分ける能力と事業利益の源泉を把握する必要がある。
日本においてソフトウェアは実質的GDP貢献度が高い。日本は特に組込みソフトウェア分野において世界で優位に立たなければならない。そして検証のための社会・産業インフラ整備を国家的規模で進める必要がある。
プロフェッションとは、知的職業、専門的職業である。プロフェッションに必要なものは、資格認定、期待される能力像・属性の明確化と育成、情報や価値観の共有の場、ガバナンスである。

奈良高専セッションでは、今年度から新体制となった「元気なら組み込みシステム技術者の養成」事業の紹介が行われた。組み込みマイコンについての基礎技術の習得を目的とした新ベーシックコースの他に、Android入門も開講されている。また、新たに発足した修了企業コミュニティ「GENETコミュニティ」についての紹介が行われた。

SQiP-Westセッションでは、SQiPコミュニティ活動の一つで関西地区で行われている、ソフトウェア品質保証責任者の会の紹介があった。月1回のペースで開催されており、毎回素晴らしい講師による講演と、講演内容に沿ったテーマでディスカッションを行っている。

午後のメインとして、テスト技法を「なんとなく使う」から「理解(わか)って使う」ことを目指したワークショップがJaSST関西実行委員会により行われた。テスト対象は「大阪電気やかん」という電気湯沸し器。予め予稿集とともに要求仕様書が参加者に配布された点は素晴らしいと思った。仕様を把握してワークショップに挑んだ参加者も多かったのではないだろうか。
まずはテスト対象を理解することを目的とした演習が行われた。ソフトウェアを理解するためにはInput-Process-Outputのモデルを使って分析することが効果的である。ということで、データフローダイアグラム(DFD)を用いて電気やかんのソフトウェアを分析した。
次に「ソフトウェアテストの本質を振り返る」というテーマで、同値分割法、境界値分析、デシジョンテーブル、CFDの4つの技法について、なぜその技法を使うのか?という使用目的と、技法を使用する際の注意点の解説があった。
その後、4つの技法を用いて、沸騰ボタンを押下したときの挙動についてテストケースを作成した。
演習は4名一組のグループ単位で行われた。議論をしながら成果物を作成するグループワークはすっかり恒例となっており、各グループとも進めていくうちに議論が盛り上がっている様子が伺えた。
筆者は並行して行われたチュートリアルに参加したためグループワークには参加しておらず、時折様子を伺う程度になってしまったが、今回のワークショップの作りこみは素晴らしく、これまでJaSST関西で行われてきたチュートリアルやワークショップの積み重ねの効果を感じた。

テスト設計コンテストセッションでは、2011年の大賞受賞チーム「めいしゅ館」と、2012年の審査員特別賞受賞チーム「あまがさきてすとくらぶ」の代表者による講演が行われた。テスト設計コンテストに参加することで、頭の中で考えるだけではなく実際に手を動かし成果物を作成していくことにより、多くの事を学び取り、自身やチームの成長を実感し、学んだことを業務に適用しやすくなることが、聴いている側にわかりやすく伝わる講演だった。

全体を通しての感想

私達が普段業務を行なっている中で、技法だけを学んでも業務にうまく適用できない。適用していても理解して使っていなければテストの質が向上しない。良いテストを行なっても要求を満たしていなければ商品は売れない。そういうことは実感しているものの、どうしたらよいかわからずに過ごしていることは多いと思う。今回のシンポジウムでは、私達が日頃からコアコンピタンスを意識して活動していくために必要な知識や技術を得たうえで、適切に活用していくためのヒントを与えてくれたと感じている。

記:坂 静香 (JaSST Tokyo実行委員会)

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