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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2012 九州

2012年11月01日(木) 於 かごしま県民交流センター

ソフトウェアテストシンポジウム 2012 九州

JaSST九州は九州地区内で毎年開催地を変えており、今年は初めて鹿児島県で開催された。
今回のテーマは「テストの理想を現場視点で実現する!」。「テスト技術の最新動向について現場で実践できる内容となることを目指す」という実行委員会のメッセージが込められ、参加人数は昨年の福岡市での開催につぐ多さで大盛況であった。

基調講演
「アジャイル・Ruby・クラウド(ARC)を活用したビジネスにおけるテストの実践」
倉貫 義人氏 (ソニックガーデン)

「テストの目的をビジネス視点で考える」というテーマで、氏の経営する会社ソニックガーデンのビジネスを事例に語られた。
氏の会社では、「ソフトウェアそのものを売る」ではなく、「ソフトが使えることを売る」ビジネスを展開している。 プログラマ以外の人材を徹底的に省いて経費を抑え効率を上げ、プログラマが要件定義、設計、開発、運用をこなす。 そのため引き継ぎ資料を不要とし、代わりに良いソースコードを書くことで品質を担保するようにしている。 このようなビジネススタイルなので、ソフトウェアを「完成すること」から「持続すること」へ品質に対するパラダイムシフトが発生する。 ソフトの完成品を売る事から継続的にサービスを売る(Point of Sales から Point of Use) へと変わり、「Point of Use」で最も大事な品質は継続性と保守性となり、ソースコードのレビューが大事になる。 品質を考えるにあたり、「顧客が誰か分かっていない状態では、何が品質なのかも分からない」というリーンスタートアップの言葉を借りて、テストの目的はプログラムが正しいか?仕様が正しいか?に加えてビジネスとして正しいか?が重要と述べられた。 ビジネスを意識することだけでは無く、どういうことを意識していくべきか、ということを考えさせられる良いきっかけになったと思う。

ポスター発表・スポンサー展示者によるライトニングトーク

ポスター発表は4件の学生による研究発表が中心であり、JaSST参加者から意見を聞きたい!という姿勢の為か、ポスター展示に多くの方が集まり発表者、聴講者がお互い熱心に会話している姿が印象的であった。 学生の活躍を見聞きできるのも九州で行われるJaSSTの特徴だと思う。

招待講演
「世界最初の"モバイル"テストエンジニアがみた'00年代とこれから」
松木 晋祐 (ACCESS )

モバイルの誕生から進化の過程でソフトウェアがどのように変化し、それに伴って重要視される品質とテストがどう変化してきたのか、氏の経験と予測が語られた。
携帯電話が初めてインターネットに繋がったi-modeが誕生したレガシーモバイルの時代、組込み系のコンテキストに属し、キャリアによる垂直統合構造によりセキュリティ、信頼性、使用性、移植性が担保されていたのでサービス自体の品質もある程度担保されていた。iPhone、Android端末等のスマートフォンが普及し始めた時代、モバイルのコンテキストが誕生し、端末メーカーが仕様策定する分散オープン型の構造になりセキュリティとプライバシーが最も重要な品質要素になった。これからの時代はクラウドコンテキストに侵食されていく。
セキュリティとプライバシー保護は別の概念である。セキュリティは適切な権限者がアクセス可能でそれ以外を許さないこと、プライバシー保護は個人特定に繋がる情報は本人の明示的な許諾が必要で効果的なセキュリティが必要なことを指す。
iPhone (iOS)とAndroidアプリは、どちらもセキュリティとプライバシーが最も重要な品質要素であるが、iOSアプリでは飽和なアプリに埋もれないための魅力さが重要視され、Androidアプリではいろんな端末に適応していることが重要視される。
モバイル開発特有の品質要素があり、それが時代と共に変化していっている話は興味深く聞くことができた。講演時間が足りずクラウド以降の話が聞くことができなかったが、クラウド時代に必要な品質要素とテストスキルをこれから意識していきたいと思う。

ミニパネルディスカッション
「どうテスト技術を現場に浸透させるか」
コーディネータ: 山崎 進 (北九州市立大学 )
パネリスト: 倉貫 義人 (ソニックガーデン )松木 晋祐 (ACCESS )
坂元 忠重 (ソフト流通センター )野崎 弘幸 (ピクオス )

最初基調・招待講演者に対して地元のソフト関係者が質問するスタイルで始まり、事前に回収したアンケート結果から出てきた質問・意見が加えられていく形で進行していった。
講演内容の質疑応答以外に、アジャイル開発、オープンソースの利用、プログラマのコミュニケーション、セキュリティ・プライバシーと文化の違い、Ruby言語、GUIテスト自動化(ツールの話)など非常に多岐にわたり活発なディスカッションが行われた。
時間が許す限り参加者すべての質問に答えたパネリストのみなさんに感謝すると共に、参考になる良い話を聞くことができた。

最後に

今回のシンポジウムは午後から開催されたため半日しか時間が無かったが、半日で終わるのが勿体ないくらい充実した内容であった。
また、学生をはじめとした若い人たちが積極的にコミュニケーションをとっている姿も見受けられ、九州地方のテストエンジニアの盛り上がりを感じられたシンポジウムであった。

(記:藤田 将志)

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