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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2014 東京

2014年3月7日(金)~8日(土) 於 東洋大学 白山キャンパス

ソフトウェアテストシンポジウム 2014 東京

ソフトウェアテストシンポジウム東京開催は、今年で12回目を迎えた。
少しでも多くの現場エンジニアが参加出来るように今回は土曜日にも開催されることとなり、会場も目黒雅叙園から今年は東洋大学に移ったが、参加者はのべ1600名程で例年と変わらず盛況であった。

以下、筆者が受講したセッションに沿って報告する。

3/7(金) 10:00-11:40
基調講演「Tester Motivation テストエンジニアのモチベーション」
Stuart Reid 氏 (英国コンピュータ協会)

世界的なテストコミュニティーを主導しているStuart Reid 氏による基調講演。
モチベーション=目標を達成する努力をするために人々に意欲とエネルギーを刺激する要因。
このモチベーションについて、ソフトウェアエンジニアにとって何が最もモチベーションの相関要因になるのか?どのようにモチベーションが変わるのか?Reid氏がモチベーションについてアンケートを実施し、それを元にした分析結果が紹介された。アンケートは全世界さまざまな役職の人々について行われた為、アジア圏とそれ以外の地域の違いについても紹介された。
役職によるモチベーションの違いでは、デベロッパー/テスターが他の役職(リーダーやマネージャー等)と比べてモチベーションダウンする例として、「同僚からのフィードバック」、「タスクの多様化」、「同僚がプロジェクトに影響する仕事(仕事の邪魔をされたくないことだと思われる)」など多く挙げられた。開発者は心理的に一つの事に集中したい傾向があって、仕事に没頭してしまう事も多い。集中の邪魔になるようなことはモチベーション低下に繋がると感じた。
アジア圏とその他の地域によるモチベーションの違いでは、アジア圏の特徴として、「誰と仕事をするのか、選んでほしいと思っている」、「組織の中で仕事をすることに喜びがある」、「時間と内容を非常に気にする」、「仕事のやり方は自分で決めたい」などの点が挙げられた。アンケートはアジア圏となっているが、自己主張が少ない点や、時間を気にする点は、日本人の特徴を表していると感じた。
テスターのモチベーションに影響する要因について、モチベーションアップは、褒めること、新しいチャレンジを与えることの例が挙げられ、モチベーションダウンは、まずいマネジメントが行われること、同じことの繰り返されること、終了基準が曖昧なことの例が挙げられた。また、マネジメントとの意識のズレとしてお金や飲み会ではモチベーションアップに効果が無いことも挙げられた。仕事の満足感を引き出すには、「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」をキーワードに、モチベーションアップとダウンの要因は同じではない、モチベーションダウンになる不満要因を取り除くだけでは駄目で、モチベーションアップになる要因にアプローチしなくてはいけないと語られた。
最後は、「講演で紹介したデータからモチベーションアップを考えてください。」と結んだ。
アンケートを取ったデータ量、分析に使った理論情報は膨大なものだと思うが、それをわかり易く、また日本人の特性に合わせて丁寧に紹介して頂けた印象を持った。

3/7(金) 13:10-14:40
C2) 良いテストのために ~テストの質向上を目指す取組み~
C2-1)「テスト設計スキル評価方法の提案と実践事例」
町田 欣史氏 (NTTデータ)
C2-2)「バグレポートの問題事例の調査と改善のためのアンチパターン集の作成」
鈴木 昭吾氏 (バグ票ワーストプラクティス検討プロジェクト)

テスト品質向上事例を紹介するセッション。
前半は、町田氏によるテストスキル評価の実践事例が紹介された。テストに対する意識改革を現場に促すため、スキルを可視化する事を目的としたスキル評価の試験を行った。テスト設計分析とテスト実装・実行は経験や勘に依るところが大きく、テスト設計スキル向上の施策効果は限定的となる。試験を通じてスキルを可視化して正しい知識を知って貰うことは、スキル向上への近道として有益だと感じた。
後半は、鈴木氏によるバグ票(バグレポート)のアンチパターン集作成事例が紹介された。現場にある駄目なバグレポートを、2年前のJaSST'12東京で参加者から情報提供してもらい、そこから分析されたアンチパターンが示された。バグ票の取り扱いにはコミュニケーションが大事であり、アンチパターンで情報共有しやすくして、問題の早期発見を促すのは有益に感じた。また、アンチパターンのタイトルも「バグピンポン」のようにインパクトがあり、大体内容が想像出来るタイトルがつけられている点等、多くの部分で工夫されていた。これからも継続して活動されるので、充実した内容になるのが楽しみである。

3/7(金) 16:50-18:20
F4) チュートリアル1-3 :SaPID ~自律型改善~成長への道しるべ~
「自らが変化の起点になる!プロセス改善手法SaPID入門」
SaPID:Systems analysis / Systems approach based Process Improvement method
安達 賢二氏  (HBA Quasol)

プロセス改善手法SaPIDを解説するチュートリアルセッション。
SaPIDは、実務を行う担当者や管理者自らが解決すべき問題を洗い出し、現実的に解決しながら、段階的に成果をあげていくことを目指す手法。チュートリアルでは、プロセス改善を具体的にどのように考え進めていくのか、ステージとステップに区切って解説された。
改善が上手く行かない典型的な問題構造の説明で、「外部からプロセス面への評価を言われる事が現場のモチベーションを下げる要因になりうる。」それは「品質マネジメントシステム(QMS)における内部監査や外部審査も同じ。」という話があった。改善活動をする上で中々進捗が進まない、改善をやる気になれないのは何故なのか、この一言で理解が出来たと感じた。
QCDトレードオフの様に、QCDの一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態ではなく、QCD全体の改善が必要である。この説明の中で、「本当は実力を上げたい筈です。」というコメントがあった。この様に本質を短く的確に表現された説明が行われ、非常に理解がスムーズであった。
チュートリアルの中で問題構造をモデル化した問題構造図が数多く登場し、一見「なぜなぜ分析」と同じように感じたが、SaPID問題構造図は「原因が存在すると結果になりやすい」という所から、「原因」と「結果」の関係で矢印が繋れていた。この図も見易くわかり易いものであった。
ビジネスは継続性が大事で、SaPIDには改善活動を継続し易くする工夫が盛り込まれ、具体的で実践的な方法が提示されていた。プロセス改善の最初の一歩を踏み出すに当たり、非常に有益な手法であると感じた。

3/8(土) 10:00-11:30
A5) チームで向き合う品質 ~成功の成否は人の和にあり~
「チーム内の暗黙知を形式知化する方法」
天野 勝 (JaSST Tokyo 実行委員会)
和田 憲明 (JaSST Tokyo 実行委員会)
島根 義和 (JaSST Tokyo 実行委員会)

暗黙知を形式知化するノウハウをディスカッションするセッション。
SECIモデル(セキ・モデル)に倣い、暗黙知を共有する所から始まり、伝わりやすい内容に洗練して形式化していく過程を、3人で1チームを作り、「インタビューする人」「インタビューされる人」「記録する人」と役割を決め、SECIモデルの共同化、表出化、連結化、内面化のサイクルを、インタビュー、粗い文書化、レビュー、文章修正、公開する、という流れで実践した。
筆者のチームは、開発者1名、コンサルタント2名という組み合わせだったので、自然と開発者が困ったこと、何をしたのか、どうなったのかを、コンサルタントがインタビューする形となった。開発者がリラックスして話をし、コンサルタントが的確に状況を汲み取っていったこともあり、短時間で公開できる状態に上手く仕上げることができた。
実践する中で、「インタビューされる人」がリラックスして話が出来たことが一つのコツだと感じた。そして、「インタビューする人」が如何に聞いた話をキーワードにして書き出せることが出来るかも一つのコツだと感じた。インタビューは暗黙知を形式知化するきっかけであり、レビューを通じてチーム内で伝わりやすい内容に洗練され、暗黙知が共有されていく過程を実感できた。

3/8(土) 14:20-15:50
H7)「ナウシカの飛行具、作ってみた。- お客さんと作るプロジェクトの組み立て方 -」
八谷 和彦氏 (東京芸術大学)

それまで世の中になかったものを作るとき、どうやってお客さんと共に作っていくか、自身の活動を通じて語った招待講演。
八谷氏は、メディアアーティストとして技術とアートとデザインの領域に関わるところで仕事を行ってきた。技術とアートの共有領域では「視聴覚交換マシン」、アートとデザインの共有領域では「ポストペット」、デザインと技術の共有領域では「CHANEL銀座ビルのアニメーション」に取り組み、技術とアートとデザインの3つが重なる領域として「OpenSky (八谷氏個人が飛行装置を作ってみるプロジェクト)」に取り組んだ。OpenSkyのプロジェクトは約10年の歳月が掛かったが、スタジオジブリ宮崎駿監督作品「風の谷のナウシカ」に登場する、一人乗り飛行具「メーヴェ」に似せた美しい形の飛行機を作り上げ、実際にフライトに成功した。
無い物を作る原動力は、一人だと乗り越えられなかったりするが、それを「面白い」「すばらしい」「いいね」と言ってくれるスタッフ、ファン、お客さんが周りにいることが大事。プランニングの人と開発者がある程度一体化していないと難しいものがある。技術が無いと当然物は作れないので、エンジニアリングは必須。後はロマンスと意地があれば出来るし、やめなければいつか完成する。
新しいフロンティアを見つけ、そこでやりたいことを実現させるためには、豊富な知識とセンス、緻密な計画と努力に裏付けられる技術が必要で、それを「ロマンスと意地」という言葉で、自身の夢を実現させていく姿勢は、心が惹かれ好ましく感じた。

3/8(土) 16:00-17:40
H8) クロージングパネル
「テストエンジニアの育成による組織力・チーム力の向上 〜現場が幸せになる育成とは?また、エンジニア自身が成長するためには〜」
モデレータ:
安達 賢二氏 (HBA Quasol)
パネリスト:
Stuart Reid氏 (英国コンピュータ協会) ※逐次通訳
片山 徹郎氏 (宮崎大学)
佐々木 方規氏 (ベリサーブ)
中野 直樹氏 (マルチパラダイムシステムズ)
西 康晴氏 (電気通信大学)

テストエンジニアをどのように育成していくのか、テストエンジニア本人がどのように自ら育つのか、テストエンジニアが育った暁には、チーム、組織がどのように本当の力をつけていくのかについてディスカッションが行われた。
テストエンジニアが育つ環境、背景について、2003年頃より、ソフトウェアテスト関連書籍が増え、ISTQB/JSTQB等のテスト技術者認定資格が運用され合格者が増えてきた。しかし、「ソフトウェアテストに専門的ノウハウが必要ないと思われている」、「上司がテストに目を向けようとしない」、「本人のモチベーションが低い、育とうとする気が無い」といった問題が、まだ残っている現状を共有した。
現場が幸せになるには、周りの課題を解決出来るエンジニアを育てることがまず重要で、そのためにはテスト技術を「ワクワクするもの」「楽しいもの」「かっこいいもの」とエンジニアに思ってもらう必要がある。
組織のチーム力・組織力の向上に繋がるテストエンジニアの育成には、テストエンジニアを育成するキーマンが必要で、その下でスキルアップすることが大切である。テストエンジニアは受け身ではなく、開発者に提案を行ってより良いものを一緒に作っていき尊敬されるようなテストエンジニアになることが大切である。
テストエンジニアは、開発者を含めステークホルダーと信頼関係を築くことが大事であり、そのためには技術やスキルの向上、コミュニケーションによる情報の共有、そして誤魔化さず本音で話し合える環境構築が大切だと感じた。

最後に

今回のシンポジウム全体を通して筆者が感じた事は、「テストエンジニアのモチベーションとは何か?」である。基調講演ではソフトウェアエンジニアのモチベーションについて、分析データが示された。いくつかのセッションではモチベーション低下の問題が話され、改善に向けて議論されていた。そして招待講演ではモチベーションが上がるわくわくする話を聞くことが出来た。筆者もJaSST閉会時にある種の高揚感に満たされた感覚になった。この高揚した気持ちがモチベーションであり、これを向上心に変え、勉学とスキルアップへの行動力にしていきたいと思う。

記:藤田 将志

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