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イベント報告
ソフトウェアレビューシンポジウム 2023

2023年 12月1日(金) オンライン開催

ソフトウェアレビューシンポジウム 2023

はじめに
 風間 裕也 氏(JaSST Review'23 実行委員会)

セッション概要

当イベントはZoom + Slido によるオンライン開催である。今回も参加者の皆様、スポンサーの皆様のお陰で開幕することができた。今回は6回目の開催となる。

JSTQBでレビューとは「静的技法でテストできる方法の一つ」と記されているが、レビューは未発展の分野である。

今回のテーマは「レビュー活動の言語化」と「開発を加速するレビュー」である。

【講演で期待していること】

講演1:
JSTQBのシラバスにある「個々人のレビュー」と「共有と分析」の具体的な思考プロセスを、テストプロセスを参考に言語化する。レビュー設計時に活用できるよう体系化した話を予定している。
講演2:
レビューはフィードバックの言動に似ているのではという仮説の元、どのように素早いフィードバックをするか、どう組織を変えていったかのお話を伺う。

レビューを実行するものと捉えている方にとっては、思考のプロセスやどう伝えるかは新鮮に感じるかもしれない。レビュー活動の言語化にチャレンジし、開発を加速するためのレビューに繋げてみましょう、と締めくくった。

S1) 講演1
「レビュー体系化の経過報告:レビュー体系とレビューアーキテクチャー」
 (JaSST Review'23 実行委員会)

JaSST Reviwの実行委員を務めている安達氏と嬉野氏から発表があった。概要は以下の通りである。

セッション概要

レビューに対する理解不足や誤認識が、レビューで発生しがちな負の事象の連鎖を発生させるのではないかと考えている。4つの観点に分けて経過報告する。

(1)レビュープロセスと実践

テストプロセスを参考に、レビュープロセスを分解し、ワークとしてそのプロセスを実践した。慣れるまでは時間をかけて身につけていくものであり、振り返りを通して、改善していくことが大事である。

(2)ソフトウェアライフサイクルとレビュー

テストプロセスはテスト=テスト実行と考えられていたフェーズから、分析、設計、実装などに分解され、テスト設計するタイミングを対象成果物を作成するフェーズ時にすることで時間とコストを節約してきた。レビューも同様に、アドホックなレビューから始まり、より前工程へとシフトレフトすることによって、レビューによるプログラム修正も指摘事項も減ってくるのではないか。

(3)レビュー観点

レビュー観点を共有せずにアドホックレビューを実施すると、多くの重複指摘があった。

レビュー観点があると、集中して特定箇所を探索することができる。また、分担と再利用ができるというメリットがある。一方で、レビュー目的やレビュー観点の構図化はトップダウンとボトムアップを行ったり来たりする必要があり、簡単ではない。いきなり自転車に乗れないのと同様に、時間がかかるものである。

(4)レビューアーキテクチャー

ドキュメント特性と、サービス領域・システム/ソフトウェア領域に分類した。

実行委員会内でも議論を行っている。対象への理解は徐々に高まっていくものなので、レビューアーキテクチャーも段階的に洗練が必要である。

今後も、体系化スコープの明確化や用語定義の作成、レビュー設計技法の構築などの活動を行なっていきたい。また、レビューとは何か、どのようなものかを引き続き探求し続けていきたい、と語った。

筆者感想

感覚的にアドホックレビューがよくないことは感じていたが、実験により定量的な数値が示され、あらためてアドホックビューのもったいなさを実感した。また、発表後に経費申請システムの仕様を利用した簡単なワークが行われ、同じ指摘事項の文章を読んでも、人によって解釈が異なることが判明した。その人の役割やこれまでの経験によっても観点が異なる可能性を示唆していた。

講演2
「TEAM TRANSFORMATION TACTICS FOR HOLISTIC TESTING AND QUALITY チーム一丸となったテストと品質のためのチーム変革戦術」
 Lisi Hocke氏

Hocke氏は、ホリスティック(一丸となって進める)とは、いつでもどこでも何でも全員で行うことである、という説明から発表を始めた。概要は以下の通りである。

セッション概要

今日は直近の3チームでの経験や得た知見を中心にお話したい。

ロールでチームを分断してしまう、役割を横断した会話の欠如など無数のチーム課題があるが、これら全てが品質に影響する。効果的な解決策は全てを「チームごと」として動くことである。そのためには、情報の透明性が必要であり、チーム内のツールや情報へのアクセス権限や、知識やスキルを共有すること、チームの回復力が必要である。組織として動いていることがわかると一体感が増し、結果としてより良い質のものができるし、強いチームとなる。

多くの方が自分には力がない、影響力がないと言うが、管理職でなくても影響力を発揮することは可能であり、どんな言動でも誰かに影響を与える。まずはよく観察し、兆候がわかったら1、2つを選んで小さく改善アクションを始めてみる。自分の思うように人は動いてくれないので、自分の行動を変えていく。前に少しずつ進めれば、少しずつは必ず改善していく。

12の戦術が1つずつ紹介された後、話してきたのはチームの変革のためのツールである。品質とどのように関係あるのか疑問に思ったかもしれない。しかし、チーム文化は全ての基盤なのである、と述べた。

最初の一歩のアクションを取ってみましょう。自分の環境で試してみて、自分のツールボックスを作ってみましょう。うまくいくかはやってみないとわからないので、やってみてください。誰もが一人でやっているわけではないので、周りの人を巻き込んでみましょう。今回の話がみなさんにとって何かアイデアのきっかけになると嬉しい、と締めくくった。

筆者感想

講演後の風間氏は興奮した様子で、「インスピレーションを受けた。良い影響を受けた」と感想を述べた。私自身も、「やりながらだんだんわかってくるだろう、というのが自信である。やる前に全部わかってなくても良い」という言葉にとても勇気づけられた。

筆者感想(全体)

まず、未発達分野のレビューをテストプロセスを参考に体系化するという発想に度肝を抜かれた。そして、12の戦術からは品質エンジニアである前に一人の人間として、自分以外の人間とどう関わるべきかを考えさせられた。既存の何かと組み合わせて物事を考えてみること、経験を通して自分の引き出しを増やしていくことに早速取り組んでみたい。

記:森田 麻沙美(JaSST Tokyo 実行委員)

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