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ASTA活動
 Testing Trends From/To Asia ~アジアのソフトウェアテスト情報~

Vol.1.
中国・天津ソフトウェアテスト事情と国際ソフトウェアテスト・カンファレンス

2008/5/21
報告者 / 増田 聡 (NPO ASTER)

はじめに

2008年第1回目のアジアのソフトウェアテスト情報のレポートをお送りします。今回は2008年4月24日(木)、25日(金)に中国・天津市で開催された 「天津国際ソフトウェアテスト・カンファレンス」(Tianjin International Conference on Software Testing)の模様をお伝えします。

天津ソフトウェアテスト事情

まずは、カンファレンスのオープンニング・スピーチでZheng Renjieさんが話された内容から天津市のソフトウェアテスト事情をお伝えします。

天津市は北京、上海と同じく中国政府の直轄市で、人口約一千万人の経済的にも発展を遂げている大都市です。ソフトウェア産業は、他の中国の都市と同様、日本を始めとする海外からオフショアビジネスが中心となっていますが、中国国内市場向けのビジネスも徐々に発展してきています。天津近郊でソフトウェア企業は約4万社もあるそうです。また、今年2008年の北京オリンピックを控え、運輸、通信、金融など社会インフラの安定にも取り組んでいます。ソフトウェアも社会インフラを支えるものとして安定を目指していますが、 中国でも社会に影響及ぼすソフトウェア障害が発生しています。ソフトウェアに起因する貨物システムの障害(香港の空港)、企業の基幹業務システムの障害(北京)、銀行のATM障害(広州)、などなど影響の大きい障害が発生しています。
こういった事態を踏まえ、天津科学技術省はソフトウェアの定量的可視化や人材のトレーニング、組織的なソフトウェア開発の管理強化などに取り組む一方、天津ソフトウェアテストセンター(TSTC)を通じソフトウェアの認証制度を導入しています。これは一般企業が出荷するソフトウェアをTSTCが第3者検証をおこない、そのソフトウェアに対して検証済みの認定を出すという制度です。市場に出荷される前のソフトウェアに対して一定水準の検証をおこなうことで、市場に出てからの障害を未然に防ぐことを目的にしています。

天津ソフトウェアテストセンター
(Tianjin Software Testing Center:TSTC)

TSTCは今回のカンファレンスを主催しています。天津市近郊の企業のソフトウェアの第3者検証をおこなっており、テスト技法や事例などを研究および収集しています。今回のカンファレンスの目的も世界各国からテスト技法や事例を学ぶといったことと、中国国内企業に対してソフトウェアテストの知識を向上させようといったところにあります。

天津国際ソフトウェアテスト・カンファレンス

写真/オープニングの様子
[写真1] オープニングの様子

カンファレンスは2日間の日程でおこなわれ、1日目の午前中はオープンニング、基調講演がありました。基調講演はオランダから参加のテストコンサルタントKees Blokland氏の「No Risk, No Test」、中国精華大学教授 郑人杰(Zheng Renjie)氏の「ソフトウェア品質リスクによる障害に備えよ」などがありました。Blokland氏はリスクベースドテストの有用性・方法についての講演で、Zheng氏は前述のように中国でのソフトウェア事情とそれに対する第3者検証による認証について講演がありました。会場では聴講者約200名が中国から参加し、発表者はアメリカ、インド、オランダ、韓国、日本と国際色豊かなオープニングでした。

写真/会場の様子
[写真2] 会場の様子

1日目の午後は3つのトラックに別れ、計10セッションが開催されていました。中でもご紹介したいセッションは以下の2つです。
・Best Practices for Building Test Excellent at Microsoft(*1) --- Anu Arora, USA
・Service-Based Software Testing --- 白晓颖(Xiaoying Bai),中国

米国Microsoft社のテストアーキテクトであるArora氏は22年間のソフトウェアテストの経験があり、その豊富な経験からマイクロソフトではテストをどのようにおこなっているか、どういう人材を育てているかについて語っていました。
Arora氏によれば、マイクロソフトは基本ソフト(OS)からドライバーソフト、マイクロソフト・オフィス製品など約300の製品を扱っており、中国では2億2千万人がInternet Explore(*2)を使っているそうです。多岐広範に渡る製品の非常に多くのユーザーからは、安全に、堅牢にと要求はどんどん上がってきています。

「なぜ、Microsoftでテストが重要か?それは障害を防ぐためです」
「Microsoft社には8万5千人の技術者がいて開発者とテスターの数は比率として1:1です」
「ソフトウェアテストは機能を検証する(verify)ことという定義をしています」

など非常に興味深い話が続きました。人材についても、

「ソフトウェアのバグを見つける(壊す)だけでなくそれを直すことができる人を探し採用している」
「主にコンピューターサイエンスの卒業生またはソフトウェア業界からの採用」

とのことです。また、開発者との関係などについても、

「設計に物申している。テストしやすい(Testability)ように設計するように」
「テスト担当者は製品の出荷を止める権限を持っている」

と語っていました。

Service-Based Software Testingの精華大学白晓颖准教授の講演は非常に有益性が高い内容でした。SaaS(Software as a Services)に代表されるように、ソフトウェアがサービスとして個々に提供され、 異なる組織から提供されるサービスの組み合わせからソリューションが構築されるようになった場合、如何にして効率よく個々のサービスの機能、パフォーマンスなどを検証するのかという課題があります。これに対して、白氏はDecentralized, Contract-Based Collaborative Verification and Validation (DCV&V)という概念を導入し、個々のサービスが外部に対して提供すると宣言している機能をもとに、それらの機能を組み合わせる検証方法を提唱しています。
具体的にはTester, Test Broker, Test ProviderというWeb ServiceのService User、Service Provider、Service Brokerにそれぞれ対応する構成でUDDI registry等からServiceのインタフェース情報などを収集しテストケースの生成、実行、管理を行うというものです。これをTest Broker Architectureと名づけ多数の論文を発表し、講演もおこなっています。高度な中にも具体性のある内容だったと感じています。

写真/講演後質問を受ける池田氏
[写真3] 講演後質問を受ける池田氏(中央)

2日目午前はわれらが日本の池田暁氏の「マインドマップから始めるソフトウェアテスト」とProject Kumikos Co. Ltd.代表取締役 杉山久美子氏の「Let’s Evaluate or Play with Your Printer」のセッションがありました。同名の著書がある池田氏は、昨年韓国のソフトウェアテスト・カンファレンスでも講演し好評を得ていました。「ソフトウェアテストの計画・設計などにマインドマップを活用することにより、ソフトウェアテストの初級者でも効率よく効果的なテストをおこなうことができます」(池田氏)。中国ではマインドマップの認知度がまだあまり高くなかったのですが、マインドマップとは何か、なぜソフトウェアテストに適用するのか、どのような効果があるのかなど、突っ込んだ内容の質疑応答が池田氏と参加者の間で交わされました。
杉山氏のプリンターの印刷検証の講演は、印刷の良い例悪い例を対比し非常にプラクティカルな内容で、参加者にとっても有益であったことと思われます。

おわりに

天津科学技術省が定めたソフトウェアの第3者検証のように、中国ではソフトウェアの第3者検証をおこなう方向性が出てきています。ソフトウェアテストセンターは天津のほかにも、北京、上海に設けられており、同様のサービスを中国国内企業向けに提供しています。もし日本で同様のことを行うと考えると、テストしても全てのバグが除けるわけではないしバグがどれくらいあるかわからないものに認証は与えられない、認証を与えてその後そのソフトが障害をおこしたらだれが責任を持つんだ、などの意見が出てきそうです。たしかに、その考えは一理あると思いますが、よりよいソフトウェアをつくるために行動をおこしている点は評価すべきと考えます。よりよいテスト技術・事例を世界各国から集め、知識・スキルを向上させていくその姿勢は見習うべき点があります。私たちNPO法人ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)もそういう活動をし、みなさまテストエンジニアのお役に立てたなら幸いです。

Testing Trends from/to Asia ~アジアのソフトウェアテスト情報~
ASTERではソフトウェアテスト技術に関して、中国、韓国、マレーシア、ベトナム各国と連携を進めています。ソフトウェアテスト技術の振興ためアジア各国のテスト技術・事例を日本に紹介し、 また日本の技術・事例をアジア各国に紹介していきます。

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