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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2012 東海

2012年11月30日(金) 於 刈谷市産業振興センター

ソフトウェアテストシンポジウム 2012 東海

第4回JaSST東海は刈谷市産業振興センターにて10時から行われた。
参加者は約120名であった。
今年の参加者の傾向として、組込み開発関係が58%、エンタープライズ系が14%。全体的に開発担当の参加者が増加傾向にあったとのことである。
今年のテーマは『テストの目的を考えよう』→一日みんなでテストの目的を考える時間にするとのことで始まった。

その中で、筆者が参加したセッションのレポートを報告する。

基調講演

日本HP 湯本氏による基調講演。
タイトルは、今年のJaSST東海のテーマに沿った内容で『ソフトウェアテスト、一番最初にやるべき大事なこと ~テストの目的をプロジェクトで共有する~』。
以下の順にソフトウェア開発で見直すべき問題を洗い出し、テストの見直しが求められていることを理解したうえで、テストの目的とそれに対する手段についてお話しいただいた。

  1. ソフトウェアが直面する課題
  2. ソフトウェアテストの全体像
  3. テストはなぜやるのか?
  4. テストの目的とは?
1.ソフトウェアが直面する課題
  • ソフトウェアテストが直面している課題は、以下の2点である。
    (1) ソフトウェア開発が大規模化するにつれ、テストが難しくなっている。
    (2) 開発工数が短期化するにつれ、テストの工数も短くなっている。
  • 平均的に開発工数の40~50%はテストであり、テストの効率をよくすれば開発工数が減る。
  • テスト工数が増加する要因は以下にある。
    (1) 欠陥の多くは上流で発生しているが、それを後工程のテストで取り除いていること。
      (コストがかかるので、欠陥をテスト工程で取り除くことを見直すべき。)
    (2) ユーティリティを使うことで、開発工数を減らすことはできるがテストは減らない。
    (3) テスト開発技術、テスト実行技術、テストマネジメント技術がないため。
      (上記がないと、開発がうまくいっているかわからなくなる。)

まとめると、ソフトウェア開発の大規模化、および、工数短期化によって開発工数を減らすことが求められている。
その開発工数の大部分をテストが占めており、テスト工数が増加する要因を改善していくことが、今求められている。
そのためには、ソフトウェアテストの全体像を知ることが大事である。

2.ソフトウェアテストの全体像
  • テストは実行することだけがテストではない。しかし、"テストの準備"もテストに含まれることがわかっていても、どう準備してよいかわからないから準備できない。必要なのは、"テスト開発"と"テスト実行"と"テストマネジメント"である。
  • テストを開発するとは、以下の流れでテスト計画からテスト実装まで行うこと。
    (1) テストの目的や対象をテスト計画で明らかにする。
    (2) 目的をもとに、テストを造れるように分析する。
    (3) 目的に合うようにテスト設計する。
    (4) 見落としがないようにテスト実装する。

テスト工数が増加する要因を改善していくために、まずはソフトウェアテストの全体像を知ることが大事である。

3.テストはなぜやるのか?
  • 「なぜテストするのか?」はISTQBには、"テストの必要性"として記述されている。
  • 必要性は、"目的"と"手段"に分解できる。
  • テストの目的は"テストの必要性"を実現する手段である。
  • テストの目的といっているところはどこかを認識しないと、手段を間違える。その時の目的をはっきりさせるべきである。
  • テスト設計は、テストをうまくやるための一手段であり、どこを立脚点にして世界をとらえるか考えないと混乱する。複数でシェアするためには抽象化しなければいけないし、実際に使うには具体化しなければならない。

つまり、「なぜテストするのか?」は目的と手段に分解することができ、テストの目的は「なぜテストするのか?」を実現する手段である。

4.テストの目的とは?
  • テストを他のものに例えると、テストとは品質を写す鏡であり、テスティングは鏡を使って知る行為。鏡が汚いと見えない。また、なぜ見るのかよくわからないまま見てもよくわからない。
    何をどこまでやればよいか、ちゃんとわかったうえで見ないとなんだかわからないことになる。いつも同じものではないのに、同じことをテストするのは根本的に間違っている。
  • どのテストが最適かわからないから、テストの目的を整理して共有する必要がある。共有するために技術的な大事なことは、「具体化」「目的の達成度合いの十分性基準」「全体像」「目的と手段の協奏」である。
    その他、マネジメントが必要である。
  • 目的からテストケースへのつなぎ方の一例がゆもつよメソッド。
    テストの目的とは毎回変わるのでその都度、テストの目的を整理して共有する必要がある。

以上、JaSST東海のテーマ「テストの目的を考えよう」に合った内容について、テストを他のものに例えたり、そうしなければならない理由を説明してくれたりと、わかりやすく丁寧に教えてくれたセッションだった。
湯本氏が会場に投げた質問事項に対しても多数の手が挙がり、参加者の意識の高さが感じられた。

ポスターセッションプレビュー/ランチセッション

ポスターセッションプレビューとランチセッションでは、ポスターセッション参加者が2分間でそれぞれのポスターセッションの内容を解説してくれた。ランチセッションでは時間内に終わらないと、強制的に終了させられる形式であったが、各発表者ともポスターセッションの内容を上手にまとめて発表していた。
時には笑いが起こり、終始和やかな雰囲気でセッションが進行していた。

ポスターセッション

ポスターセッションには、ポスターセッションプレビュー、および、ランチセッションで発表した12組のポスター、および、テスト設計コンテスト出場チームのポスターが貼りだされた。
どのセッションにも参加者がたくさん集まっていて、時間いっぱい賑わっていた。各セッションとも、ポスターセッションの内容や今後の目標などを熱く説明していたのがとても印象的だった。

経験発表

経験発表は、きょん氏による「アジャイルなテストの見積もりと計画作り」
アジャイルとは何か?を経験をもとに自分なりに考えて出した答えを発表してくれた。
テストの見積もりをしようといろいろと試したが、やってみてもすぐに悩んでしまう。
問題として、"テスト観点とは何か?"がよくわからなかったので、どうにかできないか考え以下の3つに絞った。

  • テストにかかわりそうなパラメータ数
  • テスト実施の難易度
  • どれくらい組み合わせるか

以上の3つに絞ったうえで、テスト用のKanbanを用意して何かおかしいことがあるとすぐにフィードバックし、変更していく。
また、見積もりのために実施する1dayの「調査的テスト(仮)」(テストケース1ケースをさらっと行うもの)を取り入れてTest Boardを1日で1周することで何かをつかむ。
このように継続的にできるやり方を模索しながら探していったプロジェクトの事例を紹介してくれた。

ここから自分なりに気づいたことは、以下の2点だったとのこと。

  • 「テストアーキテクチャ」は自分が思った以上に作りこむ必要がない。
  • テストアーキテクチャはコードから自動生成されたモデル図だ。

何か新しいことをやろうとして、すぐに悩んで止まってしまうのに非常に共感できる。
しかし、そこでやめないで続けてこそ何かを掴めるという非常によい経験発表だと思った。

テスト設計コンテスト

東海でのテスト設計コンテストの出場チームは「士-SABURAI-」と「MKE98」の2チームだった。

■士-SABURAI-

全体コンセプトは、これまで仕様書からそのままテスト仕様書を作成していたことを変えたいと思ったのだそう。そのために以下の2点をコンセプトにした。

  • (1) 第三者は理解可能な分析・設計
  • (2) 無機質なテスト設計だけで終わらせない

(1)のために、DFDで分析し、トレーサビリティを用意していった。
(2)では、ユーザーの性格とユーザー環境を考慮して、品質特性とユーザー観点をマージしてテストを作っていった。

(1)(2)を実施したことで、以下の効果が見られた。

  • 仕様書コピーの設計書より、レビュー時間が減った。
  • ユーザー観点の取り入れにより、実施者への依存が減った。
■MKE98

コンセプトは、HAYST法とゆもつよメソッドを参考にして、プロセスを改善するために抜けモレの発見に力を入れ、有効であることを検証すること。

PFDで今回の流れを整理したうえで、仕様書に書かれていない考慮漏れを減らすために、以下の3つについて考えた。

  • (1) 品質要求
  • (2) 利用目的
  • (3) 異常

上記を考慮したことで、以下の効果が見られた。

  • (2)で6W2Hを使って目的思考で考えることで、より多くの気づきを得られた。
  • (3)でHAZOPを使うことで、要求仕様書に記載がない想定外の状態や入力値を抽出できた。

審査委員によると、東海は2チームともとてもレベルが高く、各チームともテスト詳細設計のまとめが素晴らしいとのこと。
確かに、ポスターセッションで見たところ非常にスッキリまとめられていた。他地域の本選出場を決めたチームがすべてJaSST東海に参加していたとのことで、JaSST東京での本選はかなり熱いものになること間違いない!

SIG

SIGでは、全12のテーマについて、各自で抱えている悩みや課題の情報・意見交換が行われた。実は筆者もそのうちの一つのSIGオーナーとして参加させてもらった。
テーマは「要求仕様書のレビューにはどんな視点が大事?」まず初めに、自己紹介がてら普段のレビューにおける困っていることや工夫点などを話していただいた。
最初はちょっとかたい感じではあったが、誰かの質問に誰かが答え、誰かの困っていることに誰かが改善案を出しといった感じで次第に盛り上がりに変わっていった。
その後、いくつか用意したお題について話をして、あっという間に2時間が過ぎた。また、全員何らかの気付きを得てくれたようだった。
その他のSIGでも、小さな工夫やネタを持ち帰ることができたり、違う会社のやり方を知ることができたりと満足度は大きかったようだ。

全体を通して

参加者が非常に積極的であった。
ポスターセッションやSIGなど、発表者や他の会社の人からの工夫や意見などを身近に聞けるセッションも多くて非常に勉強になる、また行きたいと思わせるようなシンポジウムだった。
来年はJaSST東海の5周年記念ということで来年度のシンポジウムにも期待が持てそうである。

記:小楠 聡美(JaSST北海道実行委員会)

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