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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2013 東北

2013年5月31日(金) 於 エル・ソーラ仙台28階大研修室

ソフトウェアテストシンポジウム 2013 東北

今年で11年目を迎えたソフトウェアテストシンポジウム。
2003年東京での初開催後、2005年関西(当初、大阪)、2006年北海道(当初、札幌)、2007年九州、2008年四国、2009年東海、2011年新潟と全国各地域に拡がってきたが、今回8番目の開催地として"東北"が名乗りを上げた。

当日は前夜の雨が嘘のように晴れ上がり、会場であるJR仙台駅隣エル・ソーラ仙台28階大研修室からは仙台市内だけではなく周囲の山麓や太平洋までを一望することができた。
初開催にもかかわらず60名を超える受講者が詰めかけて会場は満席。
最初に初代実行委員長の根本氏より今回のテーマ「Sharing:共有から始まる第一歩」に込めた想いが伝えられ"是非発表内容を柔らかい頭で考え、楽しんでほしい"との挨拶があった。
冒頭は多少堅い雰囲気ではあったが、基調講演者の湯本氏の分かりやすい解説と人懐っこい笑顔に徐々にリラックスした空気が流れ始めた。その後も事例発表やライトニングトークス、テスティングライブ、そして情報交換会「ゆるパネ」を含めて各発表者のユーモア溢れるパフォーマンスなども手伝い、会場からも積極的な発言や質問も飛び交うなど多くの受講者が楽しみながら参加し、会場全員が一体化したイベントとなった。
シンポジウムの最後には村上副委員長よりスポンサー様へのお礼と来年の開催が宣言された。以下に主なコンテンツの概要を記す。

基調講演
開発を楽しくするソフトウェアテスト(日本HP 湯本剛氏)

どうすれば開発をそしてテストを楽しくできるのか事例を交えて解説した。
まず、仕事の楽しさの原点は「達成感」であり、自らの力で目的や目標を達成したという実感が楽しさを生む。そしてさらに達成感を得ながら仕事ができるかどうかをゲーミフィケーションの視点:切迫感のある楽観性・ソーシャル構造・幸せを感じる生産性体験・叙事詩的な意味合い、に関連づけ、ソフトウェア開発やテストに物事を楽しくする仕掛けがあるかを問いかけた。
そして開発に対するテストの貢献=テストの価値は何か?については「開発の達成感を共有するために有効な情報を提供すること」と説き、価値を生むテスト、何をもって達成したかが分かるテストにするための活動として「テスト分析」「テスト設計」「テストツール」を取り上げ、その技術を身につけ磨けば道が拓ける、自らの思いを実現することが達成感を生み、楽しさにつながることを力説した。

以上の湯本氏の解説の中で、"気分が落ち込んだときに「できごと」「考え」「気分」に分けて考えてみよう"という手法(田中友枝氏による講演内容をTwitter上で秋山氏が紹介したもの)が取り上げられた。
テストで自分の身にふりかかるさまざまな事象(できごと)の受け取り方(考え)を変えれば仕事を楽しくできる(気分)。仕事で気分がよいのも、悪いのもできごとに対する自分の受け取り方次第であり、その受け取り方を前向きに変えるためにはテストの技術をしっかり身につける必要がある、ということをさまざまなテスト業務の具体的な事例で示していた。
周囲の環境や事象は変わらなくても、自らの技能を高め、できごとへの受け取り方を前向きに変えることができれば道は拓ける、楽しく仕事ができることを肝に銘じ、今後のテストや開発、エンジニアライフを楽しく、実りあるものにしていきたいと感じた。

事例発表1:
ソフトウェアテストの7原則とゲンバで向き合う(ACCESS 松木晋祐氏)

JSTQB Foundation Levelシラバスに提示されている「テストの7原則」を自らの経験から実務的に読み解き、実際に現場でどのように活用したらよいのか、その具体的な対策事例などを示す講演であった。
7つの原則を「経営者・マネージャ向け3原則」と「実務者向け4原則」に分け、講演者目線の力強いメッセージとして発信した。まずは経営者・マネージャの立場にある方に向けて「テストで欠陥ゼロを示せ!」「すべてをテストせよ!」「どの対象も同じレベルでテストせよ!」などの非現実的な対応を求めないように訴えた。そして実務として「上流工程からテストリーダ候補者をアサインする」「機能テストだけで品質を語らない」「3サイクル目を目安に自動化へ」「欠陥の偏在箇所を特定しテストを厚くする」などの対策事例を提示した。
以上のまとめとして最後に"3つの心得"を示したが、終始簡潔にハキハキと語りかけ、気持ちがストレートに伝わる、そして分かりやすい発表であった。

事例発表2:
SeleniumとJenkinsではじめる受入テストの自動化(日本ユニシス 今井勝信氏)

地元仙台のエンジニア今井氏による発表。自動化など新しい試みには「文化と習慣」が阻害要因として立ちはだかることが多いが、今井氏は"面倒なことは極力なくしたい"気持ちで独自に導入した事例を発表した。
今井氏のキャラクターもあり終始笑いが絶えない発表であったが、時間的な制約もあり前段の背景説明と結果情報が中心で技術的な情報・解説は少な目な印象であった。とはいえ、自動化職人今井氏の実務的・技術的なノウハウなくして実現できないツール連携による自動化事例ではないかと感じた。

ライトニングトークス

一人5分の制限時間内に自らの主張を発信するライトニングトークス。
地元を含め国内各地の個性的なエンジニア7名が発表し、会場に大事なノウハウと元気を届けてくれた。

  1. 当シンポジウム実行委員長でもある仙台ソフトウェアテスト勉強会:根本氏が地元テスト勉強会の活動を紹介した「仙台ソフトウェアテスト勉強会」
  2. 楽天:菊川氏(このあとのテスティングライブ新人K役)が自らの作業経験を語った「新人Kの七転び八起き」
  3. 仙台ソフトウェアテスト勉強会:福島氏がQCDバランスを取るには失敗の許容と継続的な挑戦が不可欠と語った「QCDから見たプロセス品質」
  4. 開発工房田中:田中氏が品質・クオリティの行きつく先は"人"/心と体を安定させる太極拳の取り組みを語った「QとK」
  5. エスイープランニング:浦山氏が手動テストと自動化の一長一短を語った「The Automator ~ユーザシナリオの呪縛から逃れられるか~」
  6. TEF道(TEF北海道):藤崎氏が自らの体験から一歩を踏み出す重要性を語った「テストで描く地図。今、出航のとき」
  7. TEF東海メトリクス公団:KENさんが40枚を超えるスライドで自らのメトリクス活用経験とその難しさを語ろうとしたものの時間切れで頓挫した「ソフトウェアテストメトリクスで振り返る私の黒歴史」

発表者の懸命な、個性的なアピールに注目し、時間制限との葛藤にハラハラしながら会場全体に笑顔が拡がったセッションであった。

テスティングライブ~新人K 初めてのテスト~

新人K(楽天菊川氏)が先輩M(ACCESS松木氏)に助言をもらいながらWebアプリ(かんばんりすと for 東北ソフトウェアテスト)のテストを行う舞台設定で進行。
テスト対象をどのように見て判断し、テスト(今回は主にテスト分析~テスト詳細設計)を進めていくのがよいのかを、先輩Mと新人Kの相互対話と湯本氏の解説を通じて会場全体で共有するという新しい試みであった。
テスト分析から段階的に、今自分が何を見てどのように考え、どうしようとしているのかを口に出してテストを進めること、そして先輩=有識者がそれを聴きながら"よいところ"と陥りがちな罠への注意喚起・課題事項等をフィードバックして、新人の気づき・やる気を促進し、育てていく過程とその効果が分かりやすく伝わった。
基本的な背景以外はほぼアドリブで実施されたものと聞いているが、実際には、機能要件と非機能要件の違い、フローや図表などの視覚に訴える分かりやすい表現の必要性、顧客にしっかり説明できるように一生懸命バグを出す、同値分割・境界値分析の考え方、顧客がよく利用するハッピーパスを考える、などテスト実践時のポイントとなる事項が取り上げられ、会場全体で共有することができたと感じた。

おわりに

初代実行委員長となった根本氏が1年ほど前から中心となり東北ディベロッパーズコミュニティ(TDC)との共催で、手弁当のコンテンツや首都圏方面の有識者の協力・連携を交えつつほぼ毎月「テスト勉強会」を開催してきた。
これまでに地元仙台や岩手県など延べ300名を超えるエンジニアにテストの基本~応用技術、そして"テストの楽しさ"を展開し、ノウハウ共有の輪を拡げ、今回のシンポジウム開催という大きな一歩を踏みしめたと言えるだろう。
さらにこのあと秋田・山形などへの勉強会展開を検討しているとのことであり、次回のシンポジウム開催を含めて今後も「Sharing:共有」の輪が拡がり、たくさんのエンジニアが自らの第一歩を踏み出すことに期待したい。

2011年3月に発生した東日本大震災後の復興途上にある東北にとって、地元エンジニアの有志自らが行動し、さまざまな関係者がつながって実現したこのシンポジウムが持つ意味は非常に大きいと感じた。
地元の自発的な行動とさまざまな人々の協力・連携による取り組みが拡がり、東北のいち早い復興の後押しになることを願ってやまない。

記:安達 賢二

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