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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2017 東海

2017年12月8日(金) 於 刈谷市総合文化センター アイリス

ソフトウェアテストシンポジウム 2017 東海
「Change the way ~ 風土に合わせた改善のススメ ~」

JaSST'17 Tokaiが2017年12月8日に愛知県刈谷市で開催された。会場は昨年と同様、刈谷市総合文化センター アイリスである。天候はあいにくの雨であったが、最寄り駅である刈谷駅から会場まで屋根付きの通路があり、濡れずに会場入りできたのはとても良かった。
会場はオープニングセッションから情報交換会まで大いに盛り上がっていた。
以下に筆者が参加したセッションの内容をレポートする。

オープニング

「メリークリスマス!」
昨年同様、実行委員長の矢野 恵生氏がサンタ姿で登場した。参加者からは笑いも漏れ、緊張感が少々漂っていた会場の雰囲気が柔らかくなるのを感じた。

今年のテーマについて

矢野氏は、「プロセス改善」は最近、多くのテスト現場に広まってきたが、なかなか定着していないと話した。その理由として、現場を見ずに上司やコンサルタントが改善を進めているのではないかと説明した。そこで、伝統・文化・風土を理解して、改善を進めていく方が良いのではないかと考えたと、今回のテーマについて説明した。

基調講演
「はじめの一歩、やってみる現場改善」
細谷 泰夫(三菱電機)

改善活動に関わる人の悩み

改善活動に取り組んでいる人の多くは以下のような悩みを持っている。

  • 周りが協力してくれない
  • 周りが乗り気でない

このような状況下でも改善を進めるにはチェンジ・マネジメントを学ぶ必要がある。

「変化への恐れ」をコントロールする

「改善活動は結果が出るまではただの変化」である。そして世の中には変化を恐れる人が多い。
何か変えたい状態があったとしても、その状態は悪いなりにバランスが取れた状態(均衡状態)である。よって、改善という名の変化により、この均衡状態が崩れることに対する恐れが生まれてくる。
そこで「改善活動」を成功させるには、この「変化への恐れ」をコントロールすることが重要である。
「変化への恐れ」を克服し、組織にアイデアを広める方法としてパタン・ランゲージがある。パタン・ランゲージとは、経験者のより良い取り組みを共有する方法で、ソフトウェア設計・組織・社会の課題解決など多くの分野で活用されている。
以降ではパタン・ランゲージを使用したケーススタディを行なう。

改善活動の形態

改善活動は実施の立場によって以下の3つに分類できる。

  1. チームの一員として自分自身の作業や自分の所属するチームを改善する(ボトムアップ)
  2. リーダーやマネージャーとして自分がマネジメントしている組織を改善する(ボトムアップ)
  3. 組織外の支援者が他の組織の改善を支援する(トップダウン)

現場と提案者の間に距離があるので、3が一番不安定である。

以下、それぞれのポイントを紹介する。

チームの一員として改善活動を推進する場合

チームの一員として改善活動を行っていく場合のポイントは以下の通りである。

  1. 周りの人にバレないくらい小さく始める
  2. 上手くいったら少し広げる

最初から大きく始めると、失敗した場合に周囲からの不安、不信につながるので良くない。そして改善活動を広めていく際は、基本的にパタンを組み合わせて行っていく。上手くいったら、上記のサイクルに仲間も巻き込んでいく。2~3人を巻き込めたら、チームに拡大させていくチャンスである。
しかし、ここから「変化への恐れ」の壁にぶつかることが多い。
ここで対処を間違うと活動が広がらず上手くいかない。またエンジニアがよく「良いものは勝手に広がる」というがそれは誤解で、しっかりとアピールする必要がある。とにかく効果があるなら、あらゆる機会を掴んでアピールする。この辺りもパタン化されているので、状況に応じてパタンを活用する。

リーダーやマネージャーとして改善活動を推進する場合

基本的な活動は、チームの一員として実施する場合と同じだが、リーダーやマネージャーの場合は「組織の壁」に直面することがある。
組織の別のチームから「そんなやり方は認められない!」という声が上がっている状態から、「実績が出ているので良い方法だけど展開は難しい」と思われている状態にするのが一番難しく時間がかかる。最初の段階を超えるコツとして以下のようなものがある。

  • 取組みの効果のアピール
  • 相手が価値を感じて進めていることに協力する(信頼貯金をためる)
  • 相手が信頼している人から、ポジティブな評価をしてもらう
組織外の支援者として改善を推進する場合

支援先の担当者や、そのマネージャーの成果への期待に齟齬があると上手くいかない。
匠メソッド(プロジェクトを価値のデザインから始めて、その価値を実現する具体的な要求として抽出するための手法)などを使い、支援先が抱える問題やその原因を特定し、目的を共有することが必要である。
目的が共有できれば、手段を提案する。しかし、その手段が支援先にとって新しい手法の場合は「変化への恐れ」による抵抗がある。
とくに「その手段が、本当に自分たちにとって有効か?」の状態から、「その手段は有効そうだけど、自分たちに実行可能か?」の状態にもっていくところが最も難しい。
基本的にこの壁を乗り越えると、その後の障害を段階的に取り除いていくプロセスは今までと同じようにパタンを用いて実施する。
以上が講演内容の要約である。最後に、細谷氏が関わったテストプロセスの導入やスクラムによる業務改善をどのようなパタンを用いて推進していったかの事例が紹介された。

まとめ

組織内における立場によって改善活動の形態は異なるが、基本的な考え方は同じで「変化への恐れ」をコントロールするためにパタンを活用していく。
改善活動が進まない、と内向きになりすぎずに、チーム外や組織外にアプローチしていくことで仲間を増やすと、難しい問題を解決できる。

筆者感想

細谷氏の基調講演では今まで私が知らなかったチェンジ・マネジメントやパタン・ランゲージなどを知ることができ、とても刺激的な1時間となった。
講演内で参考書籍が何冊か紹介されていたので、それらを読みさらに理解を深めていこうと思う。
そして座学だけで終わらせずに、現場で改善活動を進めていく際は積極的にパタン・ランゲージを用いて小さくインクリメンタルな改善を心掛けていこうと思う。

特別講演
「様々な現場で、改善・生産性向上を進める上で気を付けてきたこと ~ 誰がために、その改善を行うのか ~ 」
山本 久仁朗(アカツキ)

冒頭、山本氏はソフトウェア開発の全工程の内の4割がテストに使われているので、ソフトウェアテストの改善はソフトウェア産業を救えると話した。
以下、講演内容を要約する。

カルチャーについて

大企業メーカーやWeb系スタートアップなど様々な組織で改善活動を進めてきて、組織のカルチャーや特性によって改善の観点がことなることを実感してきた。

「学び」と「改善」

以降、今まで経験した現場で、どのような「学び」、「改善」を行ってきたかを紹介する。
キャリア初期はインプット(例えば、サーバ構築の知見やPMBOKベースのプロマネを学ぶなど)が多かったが、最近になって今まで学んだ知識や知見を活かして改善活動を推進するなどアウトプットする機会が増えてきた。
良いプラクティスは沢山あるが、今がその時でない場合は無理に導入を進めない方が良いときもある。

SQAの4つの役割

山本氏はSQAの4つの役割を引用して、QAが組織内の改善を行う意義について説明した。

  • ミツバチの役割:
    QAは横串の組織なので、ミツバチのように改善やアンチパターンを横展開できる。
  • ペースメーカーの役割:
    各チームの改善活動を評価・奨励する。
  • ブレーキの役割:
    プロジェクトやチーム内でリスクをいち早く察知し、ブレーキ役になる。
  • コンサルタントの役割:
    常にプロセス改善などの最新情報にアンテナを高く張り、必要とあれば組織に導入する。
まとめ

山本氏は最後に「自分が変われば、世界が変わる」、「自分がやらねば、誰がやる」という心持ちでこれまで改善に取り組んできたと話し、セッションを締めくくった。

筆者感想

QAが改善を推進しやすい立場にいることが多いし、推進していくべきだという意見にはとても納得した。
まずは山本氏がキャリア初期はそうであったと語ったように、日々インプットをたくさんしていこうと思う。そして徐々に、インプットした知識を改善(アウトプット)につなげていこうと思う。

ワークショップ
「チームビルディングとメトリクス」
kyon_mm(オンザロード)

このセッションでは、参加者が3つのSIGと2つのワークショップの中から1つを選択し参加した。同じ時間にテスト設計コンテスト OPENクラス 東海/関西地域予選も開催された。
筆者は、「チームビルディングとメトリクス」に参加した。5人1組で2つのグループに分かれて、自己紹介を行った。
その後、各グループで本ワークショップに参加したきっかけや普段抱えている悩みや問題を付箋に張りだし、全体で共有した。kyon_mm氏によるファシリテートのもと、張りだされた悩みをグルーピングしたところ、大きく2つのグループに分かれた。今回のテーマである「チームビルディング」と「メトリクス」である。
kyon_mm氏から事例の紹介が行われた後、「チームビルディングについて語りたいグループ」と「メトリクスについて語りたいグループ」に分かれてディスカッションを行った。
そこから各自が抱えている悩みを共有し、同じグループのメンバーが解決策を一緒に考えたり、自社での取り組みを紹介したりした。
最後に本SIGで得たこと、また今後取り組んでいくことを各自発表した。

筆者感想

他の現場での悩みを聞けてとても勉強になった。
同じグループのメンバーがそれぞれ悩みを共有して、みんなで解決策を考えるとても良いセッションだった。
セッションの最後に発表した今後取り組むことを現場に持ち帰って実践していこうと思う。

クロージング

実行委員長の矢野氏は、様々なメンバー、様々な現場があることを再度強調した。
チームや現場の風土/伝統/文化を意識した現場改善をして、みんなで現場をハッピーにしましょう!という挨拶でJaSST'17 Tokaiは締めくくられた。

おわりに(筆者感想)

今回は講演後の質問も尽きぬほど出て、また情報交換会もそれぞれのテーブルで大いに盛り上がっていた。参加者の今回のテーマに対する興味の高さが感じられた。
基調講演の細谷氏と特別講演の山本氏、さらにはSIGのkyon_mm氏がそれぞれ「信頼を得る」、「信頼貯金を貯める」といった話をされていたのが印象的だった。 どのような改善活動を進めるにも、自分のチーム内における信頼、自チームの組織内における信頼というのはベースになってくるのだと思った。 筆者の職場でも、今回学んだ自分のチームの風土に合わせた改善活動を小さく始めてみようと思う。

記:工藤 元(JaSST Tokyo 実行委員会)

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