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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2021 北海道

2021年7月9日(金) 於 オンサイト開催(全セッションオンライン対応)

ソフトウェアテストシンポジウム 2021 北海道
「Testiny ~テスト技術で運命を切り開け~」

はじめに

「Testiny ~テスト技術で運命を切り開け~」をテーマとし、16回目のJaSST Hokkaidoが開催された。
当イベントは オンサイト開催に加え、Zoom + Discord による全セッションオンライン対応のハイブリッド開催であった。
開始時間前は、Zoomに「じゅんびちゅう」という手書きのかわいい案内があり、JaSST Hokkaidoならではのアットホームさを感じる導入だった。

オープニングセッション

実行委員長の中岫氏によるオープニングセッションが行われた。
オンライン開催になってから、相変わらず東京からの参加者が一番多いが、北海道からの参加者が増えたと話した。オンラインになり、参加へのハードルが下がったのでは、とのことであった。
JaSST Hokkaidoの特徴は、「実体験の提供」と「異業種に学ぶ体験」にある。実際、ここ数年の招待講演は北海道を象徴するようなテーマを扱っており、オンサイトで参加をし、北海道を目で観て体で空気を感じると学びの相乗効果がある。昨年は、オンライン開催だったが、今年はコロナ禍でもオンサイト開催に踏み切った理由はここにある。
中岫氏は、「来られるようになったらぜひオンサイトで参加してほしい」と続けた。
カンファレンスのついでに観光もよいですよ、とさりげなく北海道愛をアピールするところも、北海道流おもてなしと感じた。
「Test + Destiny」で構成した造語である今回のテーマ「Testiny」を感じてほしい、という言葉で締めくくられた。

基調講演
「"FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE"における自動リプレイ、自動探索、自動バグ分類の理論と実践」
太田 健一郎 氏(スクウェア・エニックス)

セッション概要

はじめに太田氏からの自己紹介があった。ゲームの仕事をしているが、プレイステーションのハード機を持っていないということも語られ、Discordの基調講演チャンネル内は沸いた。
また、チームには日本人が一人しかおらず、コミュニケーションの幅を広げるために様々な雑誌を読んでいるとのことであった。
趣味の幅が広く、ゲームはもちろんのこと、読書、筋トレ、オートバイ、自転車などの紹介があった。
時間を捻出し、休憩時間には技術書を読んでいるという太田氏のストイックな姿勢が垣間見える自己紹介となっていた。

開発の背景

ゲームが全世界を市場とするようになって久しい。家庭用ゲームは、ターゲットの幅が広く、様々な角度からテストを行う。ハードの性能が上がり、ゲームで表現可能なことが増え、テストの数は膨大になってきた。結果、人海戦術では追い付かず、多言語対応や倫理の観点では自動化が困難なテストも存在する、と説明があった。
バグの特性として、システムテストで結合しないと発見できないバグが多く、マスターブランチに行く前に、倫理系などのテストを徹底的にする必要があるとのことであった。

開発目的

ゲームチーム(コンテンツなど、ゲームを作成するチーム。この中に、テスト担当も含まれる)を支援する自動テストツールの開発を行っている、と太田氏は説明した。
手動では苦痛が伴うテストを実行でき、手動テストの効果の最大化を目指している。手動テストが限界に達していて、苦痛なので、とにかくそこを支援したい、と語った。

テストツールの概要

自動テストツールの機能には、自動リプレイ(リグレッション、進行不能パターン、レアバグ発見、長時間プレイ)、自動探索(徹底的な探索、網羅)、バグ自動分類(故障の原因分析、再現性の確認)があるとし、それぞれのメリットと課題を次のように示していた。

  • 自動リプレイ
    • メリット
      • 再現率0.3%のレアバグを発見できること
      • 膨大なストーリーを繰り返しテスト実行できること
    • 課題
      • テスト対象が記録時の経路に限定される
  • 自動探索
    • メリット
      • 記録された経路以外でのバグも発見できる
      • パフォーマンス(FPS、メモリ等)の分析もできる
      • コリジョン抜け(壁を突き抜けたりすること)の確認にも使用できる
    • 課題
      • 複雑なゲームではレベル(章など)の最後までたどり着けない
  • バグ自動分類
    • メリット
      • 分析時間の短縮
      • 過去の類似バグとの比較
    • 課題
      • 偽陽性バグの通知
      • 故障の検出から通知までの時間を短縮

自動リプレイや自動経路探索を実行している動画が講演内で披露された。言葉だけでなく、実際に動画として視覚化された状態の説明が行われると、Discord内の基調講演チャンネルでは、感嘆、自分たちの業務と比較した内容、その他自分たちの今まで出会ってきたゲームバグを想像した内容、そのテストの過酷さを想像した内容などが投稿され、大いに沸いた。

課題をクリアさせるテストツール開発

上に述べたような課題を解決する自動テストツール改善を継続して実施しているという話があった。以下の改善内容が示された。

  • フロントエンド改善(手動で行うことに集中できるよう、できるところは自動化する改善)
    • ゲームチームに役立つツールとする
    • 手動テストエンジニアの作業効率向上
    • カットシーンの切り出しを要望により作成する
    • どのくらいの再現率だったのか、などを評価する
  • 無限リプレイとデバッグ補助
    • リプレイ後にバグ直前で止めてデバックモードにすることができる(テスト対象が記録時の経路に限定されるところへの改善)
    • カットシーンの制御と切り出し
    • キャラクターがいる位置が不定。その位置にたどり着くまでの操作をする(複雑なゲームではレベル(章など)の最後までたどり着けない課題への改善)
  • 自動テストビルド取得
    • 自動テスト込みのビルドをUIから取得(故障の検出から通知までの時間を短縮)
今後の開発

手動のテストエンジニアのツール利用を容易にするために、今後は次のような開発を続けていくと締めくくった。

  • C++自動テストサーバ:検出したバグが偽陰性にならないようにする
  • バグ自動分類:アルゴリズムの精度向上、フロントエンドを見やすくする、など
  • テレメトリ:FPS,メモリ消化を可視化し、改善個所を常に把握できるようにする
  • バックエンド(実行テスト決定エンジン):バグ自動分類などで重み付けしてテストを制御するコアのエンジンとルールをセットにし、テスト実行できるようにする
主なQ&A
Q.
テスト側から開発チームへリクエストを送ることはあるのか。
A.
テスト容易性のために開発チームへ依頼することはない。ゲームは性能と面白さがほぼすべてになるので、テスト容易性を優先することでプロダクトのコード実行が遅くなることは避けたい。自動テストに起因するバグのようなものは避けなければいけない。
Q.
バグ分類の仕方で何か例や工夫があれば教えてほしい。
A.
同じ現象のバグ発生が複数の場合、同じ分類内の数をカウントアップする。テスト結果は大量にたまっているので、既存のものでテストして分類する。バグにたどり着くまでの機械でとれる情報をバグに近づける(落ちたこととどういう挙動で落ちたのかを提供する)ようにして、原因解明までの時間を極力短くしている。
筆者感想

太田氏の発表は、終始ワクワクすることの楽しさを受け取ることができるものだと感じた。太田氏は、「小さいころは、ブロックが好きで、つないでいろんな形を作って遊んだ」と語られていた。筆者は講演を聞き、太田氏の今は、ゲーム開発と、煩雑かつ高度なテスト結果の解析・バグ分析を「つなぐ」ツール開発をし、ブロックのように楽しみながらチームをつなぎ、技術をつないでいる、たのしさを届けるためにそれぞれの価値をつなぐ仕事をされているのだなと感じた。
「自分の技術はまだまだ、周りに全然かなわない」と謙虚さを持ちながらも、そこはこれから、という気概とワクワクを常に抱きながら毎日仕事を楽しんでいることが伝わってくるような講演だった。

事例セッションA(3A-1)
「役割分担して行うペアテスト」
伊藤 紗慧 氏(Fusic)
吉武 伸泰 氏(Fusic)

セッション概要

伊藤氏と吉武氏の二人で発表するスタイルでの事例紹介が行われた。
本事例の中で指す「ペアテスト」とは、「2人組でテストすること」であると説明があった。
従来は、各自バラバラの機能を担当しテストを行っていたが、テスト実行とバグ票の起票を行う際の思考の切り替えが発生し、能率が悪かったので、伊藤氏と吉武氏がペアになり、ペアテストを行うプロセスへ変更したという事例である。
伊藤氏は主にテストを行い、吉武氏はバグ票の起票を行う。担当を分けることにより思考スイッチを切り替えることが減ったために、伊藤氏は集中してテストを行うことができ、吉武氏は他の機能を含め俯瞰的にバグの原因等を考慮することができるようになったとのことであった。
今後の課題として、ペアで行う場合は相性問題が必ず付きまとうこと、およびリモートでの実施が増え、やりづらいことが挙げられると語った。

主なQ&A
Q.
チケットを起票する時に「きりがいい」と判断できる思考スイッチのトリガーはなにか。(ペアテスト前、ペアテスト後)
A.
きりがいい単位は状況によるが以下の通りである
  • 機能の単位でテストを仕切る
  • 思いついているテストを全部する
早く修正してもらったほうがよいと考えられる緊急度の高いものや質問などは上記二点とは別軸と考えている。よってこれらが出たときは、とりあえずそれだけを登録する。
Q.
この方法で実施したことで検出できた特徴的なバグはあったか。
A.
特別に決まっているものはない。ただ、不具合の原因(再現手順)の特定や、見つけた不具合から他の不具合にたどり着く割合が増え、速度も上がった。
Q.
在宅作業の場合、このペアテスト法にどのようなアレンジが必要になると考えるか。
A.
「あれ、これ」といったワードを使わないことが該当する。お互いの画面を見られないので、より細かく説明するようになった。慣れてくるとある程度は「あれ、これ」でも伝わるようになった。
Q.
伊藤さんの再現手順は、チケットを書いている吉武さんはどうやって知ることができるのか。
A.
不具合を見つけたときに、伊藤さんから口頭で聞くことが殆んどである。伊藤さんがタイトルを書く際に、手順も含めたタイトルにすることもある。
Q.
テスターの経験値で大きく精度が変わりそうだが、知見の少ないテスト対象等で工夫されてる面はあるか?
A.
自分たち二人が何をテストすればよいかわからないときは担当エンジニアに相談しに行く。暖簾に腕押ししている感じだったり、そもそも何していいか思いつかなかったりするときが該当する。どちらか一方が苦手なテスト対象であるときは、そのまま進めることが多い。操作の方法や、やることを沢山質問し、その中で知っている方が回答しながらテストする。回答できないもの、回答していて疑問に感じるものはすぐ担当エンジニアに質問している。
筆者感想

ペアテストで行うという事例紹介を拝聴したのは筆者は初めてだった。
思考の切り替えに観点を置き、相性の問題や個人特性の問題にも言及されプロセスに取り入れて相互補完する方向へ改善をすすめており、改善のらせんが確実に上を向いている素晴らしいペアだと思った。
この後にも改善は続いていくと予想でき、その後の事例発表を拝聴できる機会が楽しみである。

事例セッションA(3A-2)
「変更に強いスクラムQAチームの実践 メンバーが自立してタスクを回せる協力体制の構築。」
江川 さおり 氏(LOB, Inc.)

セッション概要

10名前後の新規QAチーム立ち上げにおいて、言語の通じないグローバルリモートチームが、いかにしてOne Teamとなったかという事例発表。
スクラムを組み、プラクティスをちりばめて、試行錯誤しながらチームを一つにしていった試行の紹介。
お互いに何をやっているのか見えるようにし、プロセスを渡せるようにすることがゴールであると語った。

課題と実施したプラクティスおよびツール
  • 課題と対策
    • 1人1人技術が違う:
       テストストラテジーマップ
    • タスクがわけにくい:
       テストストラテジーマップ、カンバン、RACIチャートを作成
    • コミュニケーションスキル:
       都度指示を行う
    • テストスキルや ドメイン知識:
       テストストラテジーマップを作成
    • 特定の人への依存(テスト設計・実行する人が限定してしまう):
       アサインの工夫をする
    • そもそも人材が採用できない:
       人材を育成する。ワークショップなどを行う。
育成について

何を期待しているか伝える、お礼をしっかりいう、成果に対してはっきりと褒めることを大事にし、課題をクリアしていった。おなじプロダクトに対するテストでもテスト観点が異なっていることや、言語の問題、テストセットの理解、スクラム初心者であることなどが課題だった。
学習をチームで続けるためのコツとして、「SMARTの法則(※)」を参考にし、時間をかけない、決めてしまう、無理しない、をモットーにしたと語った。

※目標設定の有効度を確かめる手法の1つで、5つの成功因子
(『Specific』、『Measurable』、『Assignable』、『Realistic』、『Time-related』)に従って目標を検討すれば効果的かつ有意義な目標を設定できるとする考え方のこと。

今後の改善

テストスキルや速さはまだ上げる必要があり、各自の持ちタスクを可視化して自分で判断できるようにして行きたいと語った。
最終的には、マネージャーがいなくても自分たちで回せるチームにしたいとのことであった。

主なQ&A
Q.
コミュニケーションを活性化させるなど、ワークショップの時にスムーズに進むように特に心掛けた施策などはあったか?
A.
難しくしない、身近になるもの、だれでもイメージできるようなものにした。ゲームでもやるように、ゲーミフィケーションの雰囲気で楽しんでもらえることを意識した。
Q.
スプリント単位で割り振りを行おうとすると、「本当は経験の浅い人をアサインしたいがリリースが明日なのでベテランを充てざるを得ない」といった事象があると思うが、そういったご苦労はあったか。
A.
リリースは優先になるが、全体的にこういう風に進めよう、と方針を固めると割り当ては大体決まるので、あまりそういう状況は発生しない。それよりは、ネットワーク環境が原因で、スキルはあってもテストしてもらえないなど、もともとの環境条件に依存するところで引っかかることが多い。もし、質問にあるような状況になった場合は、自分でやってしまう。
Q.
チームの育成メニューの一つとして行われたパンケーキワークショップは、身近なものに例えることでテスト観点についての考え方をつかんでもらう、とのことでとても興味がわいた。例えば、身近なものでやってみるとうまくいくのに実際の機能でやってみるとうまくできない、というメンバーにはどのようにフォローやアドバイスを行ったか?
A.
幸い、メンバーは本職のテスターなので、そういう状況はあまりなかった。もし同じ要件で対応するとしたら、そのメンバーの好きなものなどに例えて話すというのと、期待するアウトプットを種ばらしすると思う。
Q.
チームとして担当している領域はどこまでか?どの状態と情報でQAチームにテストの依頼がくるのかが気になった。
A.
現在は第三者QAとだいたい同じ領域(開発は終わっている状態でテスト)になるが、今後は拠点の傾向の強みを伸ばす形で、テクニカル寄りにしていき、スクラムチームに入り込んでスピードアップを目指せるところまでもって行きたいと思っている。
筆者感想

チームとしてアサインされ、そこからチームを形成するまでのプラクティスと人間関係の構築の成功ストーリー事例だと感じた。
言語も場所も時間も異なるという試される環境で、いかにしてスキルを身につけ、早くチームの一員になってもらうかを模索しながらの試行錯誤を繰り返す内容であった。
最終的には自分がいなくても自律的にプロセスが回るようになってほしいというゴールに向けて、誰でもイメージできるものを採用し、自分ごととして課題を捉え、身に付けていける最短コースを着実に進んでいく内容であった。
文化や言語が違う相手であっても途方に暮れることもなくいろいろ実践される姿勢など、参考にしたいものばかりだった。

実行委員セッション(5A-1)
「テストの現状調査 ~世界を覗いてみよう~」
JaSST Hokkaido 実行委員会

セッション概要

イスラエルのPractiTEST社が2013年から毎年実施している「State of Testing Survey」の日本語翻訳チームの一人であり、JaSST Hokkaidoの実行委員でもある根本氏が内容の一部を紹介するセッションであった。昨年(2020)と今年(2021)の状況も、大きく変わらないことがわかった。紹介された項目の中に、年収の項目があり、日本(アジア・中東)はUSA/カナダと大きく差があるという現実を知ることもできた。
印象深いものの一つに、「組織におけるテスト作業」があり、紹介者の根本氏は「テストのスコープ外も実施しており、テスト作業としながらも多岐にわたっている」と話した。
今年度(2021)の主な結果を以下に示す。

  • 回答者のロール
    • テストエンジニア 28%
    • テストリーダー・マネージャ- 28%
    • テスター・テストアナリスト 17% など
  • 回答者の所属国
    • USA・カナダ 21.5%
    • 西ヨーロッパ 23.5%
    • インド 16.25%
    • アジア・中東 7.5% など
  • 自動化の進み具合
    • 機能・リグレッション 75%
    • CI/CD 50%
  • CI/CDはどのくらいやっているか:全体の75%くらいが実施している
  • テストの学び方
    • まずやってみる
    • テストの書籍を読む
    • カンファレンス・ミートアップへの参加
    • 認定資格・教育コース受講 など
  • 技法と方法論
    • 探索的テスト
    • セッションベースドテスト
    • テスト仕様化の技法 など
  • テストツール1
    • バグ管理システム(Redmine、Jira、Bugzillaなど)
    • アジャイルワークフローツール(Trello、Jiraなど)
    • Excel、Word
  • テストツール2
    • テストQAツール(ALM、TFSなど)
    • マインドマップ
    • プロジェクト管理ツール
    • 探索メモ用ツール など
  • 組織におけるテスト作業
    • 組織内外でのコミュニケーション
    • ユーザストーリー作成 など
筆者感想

毎年、アンケートが行われ、その結果を和訳してくださる方々がおり、公開されている。その結果を多くの人と共有しながら観ると、人により様々な感想を聴くことができるので、非常に貴重な実行委員セッションだった。
組織によって、テストエンジニアの守備範囲が異なるので、参加者からDiscord内チャンネルに投稿される内容には興味深いものが多々あった。自組織の中で誰かと共有しながら結果を見てみると、また別の感想が出てくると思われるので、実施してみたいと思った。

実行委員セッション(5A-2)
「ライトニングトークス! ~好奇心を刺激する午後のひととき~」
(JaSST Hokkaido 実行委員会)

セッション概要

全7本のライトニングトークが行われた。テーマの範囲は広く、「利用時の品質を理解するためにやってみたこと パリーグ編」という、パリーグ選手の成績を用いた利用時品質の理解や、「ゆもつよメソッドの扉をたたいたその先で」という、JaSST Tohokuの参加者によるシンポジウム参加とその後の心構えに訴求する内容などがあった。
その他、コミュニケーションやソフトウエアテスト時のテストデータ、AIなどの内容があり、Discord内の実行委員セッションチャンネルへは多くの感想が投稿されて盛り上がっていた。

筆者感想

今年のライトニングトークスもバラエティに富んだ内容になっており、非常に楽しかった。普段仕事をするうえで改善したい/したことを誰かに伝えたいという想いが伝わってくる内容だった。5分という限られた時間内で自分の伝えたいことをまとめる技術は、簡単なようでなかなかハードルが高いと筆者は考えている。そのうえで、すべての発表コンテンツが参加者が楽しめるものになっていたので、これは本当にライトニングトークなのかとさえ思える贅沢な時間帯だった。

招待講演
「医療現場でのテスト ~IT化が進んでいる医療分野と、進んでいない分野~」
伊藤 幸咲 氏(impサポートセンター)

セッション概要

感染症という目線からの話をします、という伊藤氏の説明から始まった。

医療現場でのテスト

病院に患者さんが来るきっかけから説明があった。
患者さんは苦痛があるときや、健康診断でNG部分があると病院へ来院する。
苦痛となっている原因はなにかと考え、原因を取り除くことが病院の役割である、と語った。

腹痛

患者さんの訴える症状の例として、腹痛を取り上げた解説があった。
おなかの痛みの原因は様々であり、原因を想像しながら問診をするとのことであった。その際に考慮する観点は下記の通りである。

  • 問診
    • おなかの上の方、下の方、左右や奥行きなども見る
  • 痛みの性質
    • 痛みの種類、圧迫、食事に関することなど
  • 痛み以外の症状
    • 熱、吐く、下痢、便に血が混じるなど
  • 痛みの原因についての追求
    • 腹部エコー、採血、レントゲン、内視鏡、尿検査など
  • 痛みに対しての対処 内服薬、抗生物質投与、入院、手術
感染症の話

伊藤氏は、腹痛の原因として細菌や寄生虫があり、代表的な例としてピロリ菌とアニサキスを詳細に取り上げ、下記のように解説した。

  • 胃潰瘍、十二指腸潰瘍はピロリ菌が原因
    • ピロリ菌
      • かなりの確率で持っている人が多い
      • 胃がんの原因の99%はピロリ菌
  • 刺身を食べた後に襲う痛みやアレルギー症状で痛みがある場合は、アニサキス症が原因
  • アニサキスの実験
    • 塩に漬け込む時間が大事
    • 加熱するか、24時間以上塩に漬け込むか、冷凍は6時間以上すれば死ぬ
    • よく噛むことで予防できる
  • 下痢症状について
    • 腸内細菌の乱れ
    • 食中毒の場合、下痢を止めるのは危険
    • 腸内細菌をふやす、消化のいいものをたべる
  • かわった治療方法
    • 便移植
    • 寄生虫療法 (「寄生虫なき世界」に詳細が記載されている)
赤ちゃんと腸内細菌

伊藤氏は、ピロリ菌は大人の多くが持っている、と語った。赤ちゃんは生まれてすぐにピロリ菌を持っていることは稀である、と続けた。
赤ちゃんが細菌をもつケースについて、下記の通り説明した。

  • 帝王切開と自然分娩では腸内細菌の数がかなり違う
  • NICUの子などはバランス的に偏っている場合がある
  • アレルギーを持っているかどうか、なども細菌からわかる
これからのIT医療

胃カメラなどから、3Dカメラを使った撮影ができるようになり、スマホ利用、遠隔治療などが可能になると話した。より本物(体実物)を把握しやすくなっていく機器を使うようになるとのことであった。体のシステムを把握できていると、注射針を刺す角度や速さが改善される、と続けた。

最後に、ピロリ菌の感染期間が長いと、その期間に胃の細胞が壊されていき、胃の細胞は元に戻ることはないので早めの除菌をしてほしい、と締めくくった。

主なQ&A
Q.
ピロリ菌の「予防」的な観点では、なにができるか?母体から移ってしまうということは、予防は難しいということか。
A.
妊娠する前に母体に胃カメラでピロリ菌がいるかどうかを見る。その時点で除去すると、赤ちゃんには伝染しない。
Q.
ピロリ菌除染歴があるが、もう胃がんは避けられないのか。
A.
除去すれば胃がんの発生リスクは1/3になるので、胃カメラ検査をお勧めする。
Q.
健康診断や人間ドックを通じて人間の身体を健康に保つことと、定期的な点検によってソフトウェアの品質を高く保つことが似ていると思って参考にしている。今回、ピロリ菌の話があって人間ドック(胃カメラ)で見つけたら除去するというのが一般的になりつつあるとのことだが、病気は原因が様々であり、それぞれに対応しようと思うと、人間ドックの検査項目が際限なく増えていってしまう気がするが、どうやって取捨選択するのか。
A.
高齢になると受診率が高くなる、医療費が膨大になる。その事象を招かないよう、健康診断の項目は作成されている。様々な病気それぞれに対応する項目という観点ではなく、将来的に医療費が莫大にかかる項目が、健康診断の項目に入っている。
筆者感想

医療とソフトウエアテストは、昔から似た分野であると言われてきているが、感染症という分野で丁寧にそれを教えていただいたような講演だと感じた。
ピロリ菌やアニサキスによる感染症の話は、母体に赤ちゃんができる前から予防が始まるという具体的な事例を用いてくださっており、ソフトウエアバグもいかに埋め込まないようにするか予防をするということと同じだと思った。
さらに、Q&Aタイムの時に、「将来的に一番医療費が高くなる高齢者が疾患する病状から、健康診断の問診表は作成されている」という説明があったが、まさにアセスメントの質問がプロジェクト炎上しないよう正確に実施すべき事項から作成されているのと同じだと思い、筆者自身の仕事に非常に参考になるものであった。
講演中、とても楽しそうに語る伊藤氏の姿がとても印象に残る講演であった。

クロージングセッション

実行委員長の中岫氏によるクロージングセッションが行われた。
今回のテーマである「Testiny」は、「未来を把握する」という意味を込めたものだと語られた。
中岫氏の実行委員長は4期目にあたり、ふりかえりを続けた。4期で一つの流れ、テスト要求~テスト実行自動化までを取り込んだ、とのことだった。
実行委員長を務めた期間中は嵐を呼び、胆振地震にはじまりコロナ禍で終わるという試される環境であったと続けた。
2022年の開催日時は未定だが、オンサイト開催を目指しているので、ぜひ来道し参加してほしいとのことであった。また、実行委員も募集中である、と締めくくった。

筆者感想(全体)

今年のJaSST Hokkaidoは、オンサイト開催と全セッションオンライン対応を同時に行うという実行委員の手厚い試みがあり、オンライン参加をした筆者も、オンサイトで参加したような恩恵を大いに受けることができた。
オンラインの向こう側から聞こえてくるオンサイト会場の雰囲気、和やかさ、笑い声。雰囲気はネット上を這いオンライン参加者へ感染し、Discord上も大盛り上がりする。オンラインだけでは発生しないフュージョンである。
もともと、JaSST Hokkaidoの基調講演、招待講演はいつも独特の特色を持ち、ファンは多いと思われる。ファンになる理由の一つが、上に述べたような開催スタイルの結果にも表れているのではないだろうか。
今年の基調講演~招待講演の組み合わせは期待を超える繋がりを見せてくれた。
「当たり前の世界」を維持するため、できることに集中するために、自分を取り巻く「今」を見える化する。今を見据え未来を把握しながら予防しつつ、自分の好きなことを突き詰め楽しむ運命を切り開いていく、大きな意味でのTestinyが込められたものであったと強く感じた。
その他の発表でも、周りを支援し支援され、笑顔を維持したい、というものが多く、筆者にとって大きな学びと感動さえも覚えることができる内容だった。今後も、一ファンとして筆者もJaSST Hokkaidoを楽しんでいきたいと思う。

記:岡野 麻子(NaITE)

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