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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2023 東北

2023年5月28日(金) 於 オンライン + オンサイト開催

ソフトウェアテストシンポジウム 2023 東北

はじめに

当イベントは、Zoom + Miro + Discord を用いたオンラインと、宮城県仙台市の仙台市戦災復興記念館でのオンサイトを含めたハイブリッド形式で行われた。ワークショップはオンサイトの参加者とは別にオンラインの方も参加できるように、Miro上でも行われた。筆者はオンサイトにて参加した。
オンサイト会場は最大150人ほどが参加できる会場で、50名ほどが参加した。
参加者間での十分なスペースが確保されていた中で開催された。
実行委員長の武田氏から今回の講演のテーマ「アジャイルとテストと私たち ~明日「アジャイル」と言われた時に困らないためのヒント~」が共有され、「アジャイル尽くしの一日です」という言葉で締めくくった。

基調講演
「アジャイルテスター視点で、ユーザーストーリーマッピングを活用した効果的なプロダクト開発」
 川口 恭伸 氏(YesNoBut/アギレルゴコンサルティング)

セッション概要

川口氏はセッションで、『ユーザーストーリーマッピング』の書籍を例にチーム開発についての話を述べた。
最初に、アラン・クーパー氏の言葉を引用してソフトウェアの振る舞いの設計手法と構築手法では「着眼点が異なる」、またその異なる着眼点を「揃えるための共通の言葉がない」と述べた。
その認識の違いを揃えるための方法として、ユーザーストーリーマッピングの手法があると述べた。
次に、ユーザーストーリーマッピングの手法を実施していく上で重要なこととして、「全員で取り組むこと」を挙げた。
理由として、チーム内で共有の知識が出来上がっていくからであると述べた。
最後に、川口氏は、ストーリーマップを作る上で重要なこととして以下の2点を挙げた。

  • ストーリーを作る目的は、共通の理解を持ってより良い会話をするためである
  • 製品開発の目的は、小さいアウトプットで成果やインパクトを最大化するためである
筆者感想

川口氏の発表から、筆者のチームは、ユーザーストーリーマッピングの手法を使用していないもののセッションで紹介されたいくつかの重要な要素を、既に業務に活用していることに気付いた。特にチームとして共有知識の理解が重要という点を、既に実践できていることについて、今回のセッションを通じて再認識でき非常に有益であった。
ストーリーマップが特に有効な時として作るものがどのようなものか、チーム全体で理解できていない時や、新しく立ち上げたアジャイルプロジェクトのチームが効率的に、MVPをリリースしていく時に有効だと思った。

事例紹介1
「インスプリントにおけるQAの取り組みとハーモナイゼーション」
 長田 亮介 氏(freee)

セッション概要

長田氏は冒頭で、アジャイルQAとは「スクラムでの開発に適したQAの実践方法のこと」と述べた。そのアジャイルQAのあり方を前提にセッションでは、インスプリントの取り組み、開発とQAのハーモナイゼーションを述べた。
長田氏はインスプリントの取り組みで、実際のスクラムイベントに沿って、具体例を説明した。次にQAのハーモナイゼーションについて、社内での実例を元に紹介した。
その中で、debugAPIを使用して、カード利用検証をするまでの時間を丸1日から、1~2分程度に短縮したと語った。
最後に、まとめとして、アジャイルQAを行う上で心がけることとして、

  • QAひとりひとりが開発メンバーの一員であるという自覚を持つこと
  • テストするだけがQAではないので、そのチームにとっての「価値」とは何かを常に考えて行動することが重要

と述べ締めくくった。

筆者感想

長田氏が取り組んでいるアジャイルQAについて、詳細なプロセスや、実践方法について、わかりやすく解説いただいた。
長田氏は「初期の頃にはあまり理解されなかった部分もあったが、地道なQA作業によりその価値を証明し、開発者から認められるようになった」と述べた。このことは、プロセス改善や品質向上に取り組む筆者にとって、勇気を与えてくれた。

事例紹介2
「スクラムチームにアウトスプリントで関わるテスターの取り組み事例」
 大平 祐介 氏(JaSST Tohoku 実行委員会)

セッション概要

大平氏は、アウトスプリントのQAテスターとしてできることと取り組んだことを、プロダクト品質とプロセス品質に分けて述べた。
最初に、冒頭で大事にしていることとして、「プロダクトのテスターとしてチームと一緒に作業する」「いいプロダクトはいいチームから」の2点を述べた。
また、取り組みの一つとして、エンジニアと『ソフトウェアテスト技法練習帳 ~知識を経験に変える40問~』についての勉強会を実施したことを述べた。
その中で気付いたこととして、勉強会は勉強するだけでなく、コミュニケーションの場と述べた。
次に、プロセス品質としての取り組みとして、チームビルディングについて述べた。
その中で、実践していることとして、下記を挙げた。

  • ドラッカー風エキササイズ
  • デリゲーションポーカー
  • ワーキングアグリーメント

上記の施策や行動によって、今まで大きな不具合は0ですと述べた。
その上で、「プロダクト品質は、みんなで向き合うと楽しい、そのためにプロセス品質を良くしていきましょう。」とまとめた。
最後に、チームに感謝の言葉を述べて締めくくった。

筆者感想

プロダクト品質とプロセス品質を大事にしているという話から、それぞれの品質への取り組みについて話を聞けたのが良かった。
印象深いのは、プロセス品質を保つための重要な要素として、チームビルディングを重視しているという話であった。
スクラムマスターと共同しながら、よりよいチームを目指した様々なチームビルディングの施策の話を聞けたのは貴重な経験だった。
プロセス品質を良くするための施策として、自分の役割を超えてチームで足りない部分を補っていくという姿勢を見習わなければならないと思った。

事例紹介3
「Struggling with Agile Testing, in Rakuten」
 半谷 充生 氏(楽天グループ)
 中村 祐輔 氏(楽天グループ)

セッション概要

半谷氏からは、役員報告まで行ったインシデントを例に、QA組織がどのような歴史で変容していったかの説明をしていただいた。
インシデント後の品質の施策でトラブルは削減されたものの、プロジェクトリードタイムが伸びリリース頻度が下がったと述べた。
書籍『LeanとDevOpsの科学』の中で定義されているLowパフォーマンスチームに該当することが判明し、改善を中村氏と相談しながら進めたと語った。
中村氏は、相談を受けQAが担保するベースをプロジェクトベースからサービスベースに移行し、Shift-Leftを実施したと述べた。
その結果、開発とより近い距離でQAプロセスを実施できるようになり、バグを早期発見できるようになったと語った。
また、今後進めていく施策として、実行できているShift-Leftの活動の継続と、自動化を含めたテストの生産性向上、データ作成自動化、Qualityの見える化、PDM/開発/QAが品質向上の活動を協働する体制を維持していくと述べた。

筆者感想

QA組織が会社の中で求められる役割を理解し、独立した組織からそれぞれの開発チームの一部になっていく歴史の話を聞けたのが良かった。
また、半谷氏の発表の中で、自分達の組織が『LeanとDevOpsの科学』におけるlowパフォーマンスチームであるという事実から改善に繋げた行動力を尊敬した。
中村氏が発言した、エンジニアとQAが同じチームで業務をこなしていく中で「品質を上げていくにはQAだけでは実現できない」という主旨に共感した。

ワークショップ

ストーリーマップ作成のデモを体験した。
初めに例題として、シンポジウム当日の朝起きてから家を出るまでというテーマについて4人一組で取り組んだ。
個人の行動を書き出した後にチームで共通の行動を抜き出し、ストーリーマップを作成した。
次に、乗り換えアプリを作るというテーマの課題に取り組んだ。
初めの例題と同じように、機能を、実装する優先度と時系列を考慮した順に並べた後、1stリリース、2ndリリースそれぞれに必要なユーザーストーリーが定義されて、そのユーザーストーリーを満たすMVPを作成するという流れだった。
初めのシンポジウム当日の流れの例題と、次の乗り換えアプリを作る時の課題それぞれに、作業時間と、他チームのストーリーマップの確認時間が用意されていた。

筆者感想

ストーリーマップ作成のデモを通して、MVPがチーム内の共通認識で作られていくのを実際に体感できたのは、貴重な体験だった。
事前に運営側で定義されたユーザーストーリーにより、ワークを実施したチームそれぞれが似たようなMVPを作りあげた時は、このツールが持つ普遍性を体感できた。

筆者感想(全体)

今回のシンポジウムは、「アジャイル尽くし」ということで、様々な経歴を持つ登壇者の方々の話を聞くことができ、とても参考になった。
筆者は、インプロセスQAとして普段業務に携わっているので、より効率的な業務進行に繋げられる話を登壇者から聞くことができて良かった。
また、ワークショップでは、オンサイトで参加している方々とストーリーマップ作成のデモを用いてアジャイル開発のとっかかりを実際に体験できたことがよかった。
他に社内でアジャイルに困っているチームに対するヒントとして、ユーザーストーリーマッピングの手法を自分の選択肢の中で1つ増やすことができたのが、今回のシンポジウムで得られた明確な成果の一つだと思った。

記:川上 大智

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