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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2025 北海道

2025年7月25日(金) 開催

ソフトウェアテストシンポジウム 2025 北海道

はじめに

本イベントは北海道らしからぬ気温の中で開催され、会場は満席となるほどの盛況であった。 20回目の節目ということもあり、会場設備は新しく整備されており、活気のある雰囲気が印象的であった。

今年のテーマはAIであり、「AIをテストする」「AIでテストする」という両面からの探求が掲げられていた。参加者の多くが生成AIに関心を持っており、議論の中心となっていた。

オープニング

オープニングでは、JaSST Hokkaido が20回目の開催であることが紹介された。会場設備の刷新や行動規範の整備など、コミュニティとしての成熟が感じられる内容であった。

また、北海道という土地になぞらえたスケールの大きなテーマとして、AIに関する議論を深めていく方針が示された。

基調講演
「QA for the Better ~生成AI・LLM時代の品質保証と未来への挑戦~」
徳 隆宏 氏(三菱電機)

セッション概要

本セッションでは、生成AI・LLM時代における品質保証と業務改革について、実践事例を交えて紹介された。

AI活用を推進する組織として、AICoE(AI Center of Excellence)の役割が示され、推進・基盤・ガバナンスを一体として進める重要性が説明された。また、AIは単なる技術導入ではなく、業務改革と一体で進める必要があるとされた。

さらに、品質保証の観点では、チーム間での品質基準のばらつきや、テスト自動化の全体最適化の難しさなどの課題が挙げられた。これらに対しては、AIの活用とともに、課題を言語化し継続的に改善していくことが重要であると述べられた。

筆者感想

会場に対して「AIを使ったことがない人」「RAGを知らない人」といった問いかけが行われたが、ほとんど手が挙がらなかった。生成AIやRAGはすでに研究用途や一部の専門家のみが扱う技術ではなく、開発や品質保証の現場において広く活用され始めていることを実感した。

また、徳氏の軽快なトークにより、質疑応答の時間も活発な議論が行われていた点が印象的であった。専門的な内容でありながら、参加者が気軽に質問できる雰囲気が醸成されており、知識共有の場として有意義であった。

特に印象に残ったのは、「人が頑張るのか、AIが頑張るのか」という問いに対して、「東京に行くときに飛行機が頑張るのか、人が頑張るのかという議論と同じである」という例えである。AIはあくまで手段であり、目的を定めるのは人間であるという本質を端的に表していた。

AI活用が進む中で、どこまでをAIに任せ、どこに人間が責任を持つのかを明確にすることが、今後の品質保証において重要になると感じた。

「CursorでAI活用のナレッジベースを構築する」
神崎 善司 氏(バリューソース)

セッション概要

本セッションでは、LLMを活用したナレッジベース構築の方法について紹介された。

RDRA((R)elationship (D)riven (R)equirement (A)nalysis)をベースとした要件定義のプロセスと組み合わせ、LLMによって構造化された情報を生成し、理解を支援するアプローチが示された。入力は最小限に抑え、生成された成果物をレビューしながら改善するサイクルが重要であると説明された。

また、LLMの出力はそのまま利用するのではなく、図や構造として理解することが重要であると述べられた。

筆者感想

LLMを単なる生成ツールとして扱うのではなく、思考を支援するためのツールとして活用する視点が重要であると感じた。特に、構造化された情報として理解することは、要件定義やテスト設計において有効である。

パネルディスカッション
「講演者と語る生成AI~その変化、現実、未来など~」
パネリスト:水野 昇幸 氏(JaSST Hokkaido 実行委員会)/徳 隆宏 氏(三菱電機)/神崎 善司 氏(バリューソース)

セッション概要

本セッションはフィッシュボウル形式で行われ、生成AIの活用における現実や課題、今後の展望について議論が行われた。

AI活用の広がりにより、従来のスキル習得のあり方や組織の意思決定にも変化が生じていることが共有された。AIネイティブな人材の登場により、従来の前提にとらわれない働き方や組織形態が生まれる可能性についても言及された。

質疑応答では、「生成AIの活用により基礎知識を学ばずに進めてしまうことへの懸念」が挙げられた。これに対して、試行のハードルが下がることで挑戦の機会が増えている点や、実際に使いながら知識を習得していく側面があると説明された。一方で、一定の知識がなければAIの出力を適切に活用できず、かえって非効率になる場合もあると指摘された。

また、AIの進化によって過去に積み上げた知識や工夫が短期間で置き換わることに対する戸惑いについても触れられたが、それも含めて変化の一部として受け入れる必要があるという見解が示された。

筆者感想

AI活用が進むことで作業のスピードが飛躍的に向上する一方で、それを受け止める側のプロセスや組織のあり方が追いつかなくなる可能性があると感じた。

特に、意思決定や役割分担のあり方を見直さなければ、AIの価値を十分に引き出せないと考える。AIを単なるツールではなく、高い生産性を持つメンバーとして捉え、前提となる働き方そのものを変えていく必要があると感じた。

また、自身としてもこうした変化を柔軟に受け入れられるようになりたいと感じた。そのためにも、本イベントのようなセミナーやコミュニティを通じて、変化の早い分野における知見を継続的に取り入れていくことが重要であると考える。

招待講演
「昭和に生まれて平成にデビューした二足のわらじ漫画家が、令和にAIとやってみたいこと」
藤沢 チヒロ 氏

セッション概要

本セッションでは、漫画家・編集者としての経験をもとに、創作活動におけるAI活用の可能性について紹介された。

制作現場では、デジタル化の進展により作業効率が大きく向上しており、従来は手作業で行っていた工程の多くが短時間で実施できるようになっている。一方で、「描く」という個別の作業が効率化・代替される中でも、白黒漫画の表現技法など、長年培われてきた表現の本質的な価値は失われないと述べられた。

また、漫画制作は分業体制で成り立っているが、AIの活用により作業負担が軽減されることで、アシスタント業務に時間を費やすのではなく、自身の描きたい作品に向き合う時間を確保していくべきであるとの考えが示された。

質疑応答では、AIに対する危機感について問われ、漫画家としてはネーム(構成やセリフ設計)に価値があると考えており、表現の核となる部分に注力していきたいという見解が示された。

筆者感想

制作工程の効率化が進む中でも、表現の本質的な価値は変わらないという点が印象的であった。特に、ネームのような構成力や感情表現に関わる部分は、依然として人間の役割が大きいと感じた。

AIによって作業の一部が代替される一方で、人が担うべき領域がより明確になっていくと考えられる。ソフトウェア開発においても同様に、単純作業はAIに任せつつ、価値判断や設計といった本質的な部分に注力する必要があると感じた。

また、AIの進化により制作体制や役割分担そのものが変化していく可能性があるため、その変化を前提としたスキルの再定義が求められると考える。

クロージング

クロージングでは、参加者が約100名であったことが報告され、AIに関するテーマへの関心の高さが示された。

また、テスト設計におけるAI活用はまだ発展途上であり、今後の重要なテーマであることが共有された。

全体を通しての感想

本イベントを通じて、AIは単なるツールではなく、業務や組織のあり方を変える存在であると感じた。

特に印象に残ったのは以下の点である。

  • AI品質は単一の正解がなく、継続的な議論が必要である
  • AI導入は技術だけでなく組織設計が重要である
  • LLMは思考を支援するツールとしての活用が有効であると感じた

AIを前提とした業務の再設計が求められる中で、自身の業務においても積極的に活用し、品質保証との両立を図っていきたい。

記:河内 晴菜(JaSST Kansai 実行委員)

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