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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2025 関西

2025年 6月27日(金) 現地開催

ソフトウェアテストシンポジウム 2025 関西

オープニング

2025年の JaSST Kansai は、「大阪・関西万博」の開催で賑わう中、初夏の爽やかな天候の下で迎えた。

会場は、現地開催ならではの交流で熱気に包まれ、その中で実行委員長によるオープニングが始まった。

実行委員長は、JaSST Kansai のこれまでの 5年間を振り返った。
そして、万博の活気にあやかり、参加者にもポジティブな気持ちで臨んでほしいという思いから、今年度のテーマを「QA expo 2025」とした、と語った。

基調講演
「DevOps を加速させるテスト、DevOps で加速するテスト」
前川 博志 氏(ダイキン工業)

セッション概要

前川氏は、特に大企業では組織のサイロ化などが原因で、DevOps の導入は困難である、と述べた。
仕組みを構築してもコア業務と認識されず、「Four Keys」のような指標の価値も理解されにくいという課題がある、と指摘した。

多くの組織では開発の効率性が優先され「開発主導」の DevOps になりがちだが、これは統制が取れなくなる危険性をはらむ、と警鐘を鳴らした。
本来 DevOps とは、開発段階から運用時の課題を考慮し、QA などの後工程を前倒しするプラクティスである、と説明した。

そのため、DevOps を組織に広めるには、開発スピードとは別の語り口が必要である、と語った。
DevOps を「テストを加速させる」取り組みと捉え、「品質向上」を目的とすることが、文化を根付かせる有効なアプローチになる、と述べた。

また、DevOps は本質的にテストを加速させるものであり、その流れをさらに AI が加速させる、と将来を展望した。
今後、AI が生成したコードを評価する必要性が生じるため、テストを組み込んだ DevOps パイプラインは不可欠になる、との見解を示した。

筆者感想

前川氏の発表から、DevOps は単なる開発効率化の手法ではなく、「テストを加速させ、品質を高め続けるための文化・プラクティス」であるという、本質的な視点を得ることができた。
特に、組織のサイロ化が進む大企業において、「品質向上」という共通の目的を掲げることが、DevOps 導入の有効な推進力になるという点に、大きな気付きがあった。

また、将来的に AI が生成したコードの品質をどう担保していくかという課題に対し、テストが組み込まれた DevOps パイプラインが重要であるという見解は、非常に示唆に富むものであった。
今後のソフトウェア開発において、テストと DevOps が果たす役割の重要性を改めて理解できた。

「実践!実例マッピング!うまく実施するためのチーム作り」
小川 雄喜 氏(三菱電機)

セッション概要

アジャイル開発における「要求を深掘りできない」「レビューで手戻りが多い」といった課題が提示された。
その原因は、関係者間の認識ズレにあるとし、対策として「実例マッピング」が紹介された。

実例マッピングは、実際の使用例を基に要件を視覚的に整理し、チームで共通理解を得る手法である。
セッションでは、ハードウェア部門との連携不足による失敗事例や、PoC 段階で活用した成功事例が示された。

効果的な実践のためには、QA など多様な視点のメンバーを巻き込むこと、開発の初期段階で実施すること、そして良いチーム作りが重要である、と述べられた。

筆者感想

本発表を通じて、実例マッピングがアジャイル開発における要求の認識ズレを防ぐための、極めて実践的な手法であると理解できた。

特に印象的だったのは、単に手法を導入するだけでなく、失敗事例から学ぶ「チーム作り」の重要性や、QA に求められる「プロダクトを横断した経験に基づく質問力」という指摘である。

開発の初期段階から多様な視点を取り入れることで、コミュニケーションの質が向上し、結果的に手戻りの削減に繋がるという点に、大きな気付きを得られた。

招待講演
「変化する開発、進化する体系:時代に適応するエンジニアの知識と考え方~変わり続ける現場で生き抜くために~」
水野 昇幸 氏(システムエンジニアリング)

セッション概要

本セッションでは、まず 2 つの対照的な開発現場の事例が紹介された。

1つ目は、ウォーターフォール型の SoS(System of Systems)プロジェクト事例である。
長期開発の末、納入後に性能不足が発覚し、自動化で対応した経験が語られた。

2つ目は、新規 SaaS プロダクトの事例である。当初はプロセスを定めず開発を進めたが、顧客獲得後に問題が頻発した。
後にプロセスを整備し、テストを「資産化」していくことの重要性が述べられた。

これらの事例を踏まえ、現代の開発では品質への高い専門性が求められる、と語られた。
技術を「変わりやすいもの(ツール、手法)」と「変わりにくいもの(プロセス、マネジメント)」に分類して捉えることが有効である、との考えが示された。

ツール導入だけでは組織は変わらず、人がボトルネックになりがちである、と指摘した。
変化の激しい時代を生き抜くには、プロセスを自ら描き課題解決することが重要であり、「Quality Focus(品質中心の文化)」という考え方や、悪いものづくりを「カッコ悪い」と感じる感性が必要である、との見解を示した。

筆者感想

ウォーターフォール型の大規模開発と、プロセスを定めずに始めた新規プロダクト開発という、対照的な2つの事例から、開発スタイルに関わらず、それぞれの現場に合わせた品質へのアプローチが不可欠であることを改めて認識できた。

特に、「変わりやすい技術(ツール、手法)」と「変わりにくい技術(プロセス、マネジメント)」を分けて考えるという視点は、新しい手法に振り回されず、本質を見極める上で非常に有益であると感じた。

また、求められるのは「Quality Focus」という文化や個人の感性である、という指摘が心に残った。
技術的なスキルだけでなく、品質に対する高い意識と、「良いものづくり」を追求する美意識を持つことの重要性に気付かされた、示唆に富むセッションであった。

「関西の QA の未来を議論する」
パネラー:
前川 博志 氏(ダイキン工業)
小川 雄喜 氏(三菱電機)
水野 昇幸 氏(システムエンジニアリング)
大段 智広 氏(テスト設計コンテスト実行委員会)
堀川 透陽 氏(JaSST 関西実行委員会)
司会:
徳 隆宏 氏(三菱電機)

セッション概要

パネルディスカッションでは、生成 AI の台頭を軸に、これからの QA の役割変化について議論が交わされた。

登壇者からは、生成 AI の活用は当たり前になり、QA は AI を使いこなす「テストオーケストレーター」のような役割を担うとの見解が示された。
AI を活用すれば、人員を増やすことなく業務を遂行できるとの実体験も語られた。

求められるスキルとして、従来の専門性に加え、部門を横断して課題を解決する「越境力」や、事業の売上まで見据える「ビジネス視点」の重要性が強調された。
生成 AI を対話相手として活用し、これらのスキルを伸ばしていくことが、これからの QA 人材育成の鍵になると語られた。

また、関西の QA は新しい技術への意欲が高く、この変化を先導する存在になり得るとの期待も述べられた。

筆者感想

パネルディスカッションを通じて、生成 AI の登場が QA の役割を根本から変えようとしていることを強く認識した。
単なるテスト実行者ではなく、AI を従えてプロセス全体を設計・管理する「テストオーケストレーター」という概念は、目指すべき未来像として非常に刺激的であった。

また、これまでは専門性が第一と考えがちだったが、今後は生成 AI を駆使して他分野と連携する「越境力」や、自らの活動を売上につなげる「ビジネス視点」こそが QA の価値を高めるのだと気付かされた。
「これは QA の仕事ではない」という固定観念を捨て、積極的に新しい領域へ踏み出す必要性を感じた。

筆者感想(全体)

今年の JaSST Kansai は、「QA expo 2025」というテーマの下、変化の時代における品質保証の未来像を多角的に提示する、まさに万博のような一日であった。

基調講演で示された「品質向上を目的とする DevOps」という視点、招待講演で語られた「変わりやすい技術と変わりにくい本質を見極める力」、
そして各セッションで強調された「チームでの共通理解」や「品質中心の文化」といった要素のすべてが、最終パネルディスカッションで語られた「生成 AI との共存」という未来に繋がっていたのが印象的である。

各講演を通じて一貫して感じたのは、これからの QA エンジニアに求められるのは、単一の専門性だけではないということだ。
生成 AI をパートナーとして使いこなし、開発プロセス全体を俯瞰する「テストオーケストレーター」としての役割、ビジネスの成功まで見据える「ビジネス視点」、そして組織の壁を越えて協調を生み出す「越境力」こそが、QA の新たな価値の源泉となるのだろう。

「これは QA の仕事ではない」という既成概念を取り払い、自らの役割を再定義し続けることの重要性を、改めて強く認識させられた。
本シンポジウムは、未来への挑戦を続けるすべての品質保証関係者にとって、確かな指針と勇気を与えてくれる、実り多き場であった。

記:とうま(サイボウズ)

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