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2025年 10月24日(金) ハイブリッド開催
当イベントは10月24日、福岡にてハイブリッド形式で開催された。 2007年の初開催から18年目を迎える今回は、「マネジメント」をテーマに、テストマネージャやQAマネージャの立場からチーム運営やQAの在り方を改めて見つめ直す内容が中心であった。 参加者層の内訳が共有され、経営層や管理職など経験年数の長い参加者が前回より増加していた。 現地会場は多くの参加者で活気づき、オンライン参加者も含めた会の雰囲気を感じられた。
湯本氏は、JSTQB ALTM v3.0の「チームのマネジメント」を軸に、QAマネージャの役割を"地図・価値・学び"の3要素で整理した。 QAが単に不具合を見つける存在ではなく、学びを成果として共有し、価値を翻訳することで組織に投資効果を示すべきだという点である、と述べた。 また、品質コストを「予防・評定・内部・外部失敗」で捉え、リスク合意と可視化によって信頼を築くことを強調した。
講演を通じてチーム全員が同じ"地図"を持ち学びを価値へと転換することこそ、士気の源泉であると再認識した。また、freeeでのスキルラダーや1on1、横断共有会などの仕組みは、学びを循環させる実例としてリアリティがあった。 QAマネージャがその循環を設計することが、品質と組織成長を両立させる鍵だと強く感じた。
配属3ヶ月目の新卒QAであるタバ氏が、現場で感じた難しさと面白さを率直に語ったセッションである。 大学で学んだテスト技法がそのまま通用しないことに戸惑いながらも、実務を通してテスト分析や設計の"正解のなさ"と向き合っている様子が印象的だった。 不具合の再現手順を探る「原因分析」に強い興味を示し、仮説を立てて検証を繰り返す過程にやりがいを感じていると述べた。 座学では得られない体験を通じ、QAの本質に触れようとする姿勢が伝わる内容であった。
石井氏は、自社プロダクトTD/CATを支えるQAチームの取り組みを紹介した。 設計段階からリリーステストを準備し、開発・オフショアとの積極的な対話と情報共有によって品質と速度を両立させているという。 QAチームはテストにとどまらず、リリース作業や運用支援にも関与し、チーム全体の成果最大化を意識している。 発表では「小さなことでもフラットに共有する空気づくり」が重要とされ、QAの役割をプロセス全体へ広げていく姿勢が示された。
鈴木氏は、JSTQBテストマネージャ資格取得を目指す中で、生成AIを活用した新しい学習手法を紹介した。 従来の解説書や過去問が少ない中、AIに質問や問題作成を依頼し、自身の弱点分析や補講資料の生成を行う"伴走型学習"を実践した。 理解不足の領域を自動抽出し、個別最適化された学習ページを生成することで効率的な学びを実現したという。 この手法を「アダプティブラーニング」と位置づけ、時間の限られた社会人にも有効な学習スタイルであると提案した。
吉武氏は、テストチームリーダーとして3年間続けてきた「メンバーと話す時間(1on1)」の工夫を紹介した。 チーム拡大を機に始めた1on1では、目的と終了条件を明確にし、形式にこだわらず柔軟に運用してきたという。 頻度や話題設定に課題がありつつも、メンバーごとに最適化することで関係性を維持し、対話の質を高める工夫を重ねた。 形式よりも「互いに話したいことがあるか」を重視する姿勢が印象的で、チーム運営における継続的なコミュニケーションの重要性を示した発表であった。
大西氏より、同社が運営するオウンドメディア「Hello Quality World!(HQW!)」が紹介された。 HQW!は、品質技術やビジネス・キャリアに関する知見を幅広く発信する"テクノロジーライフメディア"として位置づけられている。 読者登録(ベリサーブID)により5カテゴリの専門コンテンツへアクセス可能で、品質の枠を超えた学びの場としての活用が期待される。
長坂氏は、テスト活動の振り返りMTGにおける「心理的安全性」向上の取り組みを紹介した。 成果と課題を率直に話せる環境を整えることで、ネガティブな指摘を前向きな改善に変えるチーム文化を醸成している。 特に、成功体験を根拠とともに共有することで発言の質が高まり、言える・聞ける関係が生まれるという実例が示された。 心理的安全性を土台とした改善活動の意義を実感できる発表であった。
福田氏より、JSTQBの最新情報として、認定試験とシラバスの概要が共有された。 国際的に通用するIT資格として、国内6種の日本語対応試験が紹介され、特にアジャイルテスト担当者(AT)は期間限定資格であることが強調された。 最新のTest Management v3.0のキーワードも取り上げられ、学習者への指針が示された。 資格取得を通じて国際的な共通言語で品質を語れる意義が改めて伝えられた。
山本氏は、アジャイル・クラウド・AIなど新技術の進化により不確実性が高まる中で、テスト・QAマネージャが果たすべき役割と重要性を語った。 テスト対象や環境が「千変万化」する時代において、共通の型を当てはめるのではなく、現場に応じて最適なプロセスを設計し、チーム力を高めることが鍵であると指摘した。
講演では、テスト計画からモニタリングまでの活動をどのように適用・浸透させてきたかを自身の業務経歴と照らし合わせながら具体的に紹介されていたことが印象的で、実務経験に基づいた言葉の重みがあった。 特に、経験を棚卸しし自己分析につなげる手法や、リスクベースドテストを定量的に評価する視点は実践的であり、「兵拙速巧久賭也」に象徴される確実さを重んじる姿勢は、変化の激しい開発環境でこそ活きる学びだと感じた。
湯本 剛 氏(freee、ytte Lab.)、山本 くにお 氏(SigSQA研究会)による「基調講演と招待講演を聞いて皆様の気になったことや質問をさらに講演者のお二人に聞いてみよう!」というテーマでパネルディスカッションが開催された。 パネルディスカッションでは、登壇者と参加者の間で実務に即した活発な質疑応答が交わされ、現場におけるマネジメントへの関心の高さがうかがえた。
質問:テスト品質をどのように評価するか
欠陥数やレビュー指摘数などの異常値を基準に、上流工程の影響を含めて分析する。 不具合が出ない場合も他メトリクスとの比較で判断し、良否を総合的に評価することが重要である。
質問:QAの必要性を経営層へどう説明するか
インシデント削減やリードタイム短縮などの成果を数値で示し、QA活動を"保険的投資"として説明することで、理解と予算確保につなげる手法を用いる。
質問:テスト設計をどのように標準化するか
サービス・機能・施策観点で整理し、因子と水準を抽出してケース化する。 さらに欠陥の重篤度を明確化し、リスク洗い出し会などで優先度をすり合わせることが重要である。
質問:チームメンバーを上手に褒めるにはどうすればよいか
1on1前に褒める点をメモし、具体的な行動や成果を言語化して伝えることが効果的である。第三者からの評価を交えて伝えると信頼関係が深まる。
質問:メンバーの学びをどう継続させるか
学ぶテーマを明確にし、1on1で進捗や気づきを確認する仕組みが有効である。小さな学びを積み重ね、反応を見ながら深掘りする継続的支援の姿勢が重要である。
「明日からの業務や、将来マネージャとなる際にぜひ活用してほしい」とのメッセージで締めくくられ、本会は盛況のうちに閉幕した。テストマネジメントを業務の中心としている筆者にとっても、現場の課題を見つめ直し次の一歩を考える貴重な機会となった。
記:巻 宙弥(テックタッチ株式会社)