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2025年9月12日(金)オンライン+オンサイト
実行委員長のあいさつで開始された。
JaSST'25 Niigataは、今回、「デジタル時代におけるUXの考え方」をテーマとし、ユーザーへの更なる価値提供について探求するために設定されたことが説明された。会場の参加者とのやり取りで、意外にも関東からの参加者が多いようであった。その他、イベントについての注意事項、行動規範等が説明された。
基調講演の他に2つの事例発表が実施された。今回も、発表内容に対する質問、その他不明点などをオンライン上でコミュニケーションするためのDiscordが設置された。
今回のイベントには90名の方にご参加いただいた。
オープニングでの会場と実行委員長との会話(「どこからきましたか?」)から、関東からの参加者が多いことがわかり、私には意外であった。そうしたことからも、参加者のUXに対する課題と興味が高い様子が伺えた。
イベント会場は昨年に続き、NINNOで開催された。通常の会場は、後方の席だと投影されている資料が見えにくい、という課題があったが、3画面横長のスクリーンで、左右に発表者の資料が投影され、中央スクリーンにはDiscordの内容が投影されるという工夫がされていた。

この工夫により、会場のどの席からも資料が見えやすく、またDiscordの内容からオンライン参加者の感想や質問も見ることができるため、一体感があった。
また、レポーター席を用意していただき、感謝する。とてもメモが取りやすかった。

10年以上にわたりアプリづくりに携わってきた経験に基づき、アプリの世界における「良いもの・良い品質」をデザインの視点から解説された。
スマートフォンなどのネイティブアプリ(以下「アプリ」)は、ウェブアプリ(以下ウェブ)と異なり端末依存やプラットフォーム依存があること、コアファンによる利用が多いことなど、アプリとウェブの違いを説明された。さらに、アプリはユーザーへの提供時に申請フローがあるため、ウェブと比べてリリース管理が難しい(いつ審査が終わるか、フィードバック内容対応など)といった特有の問題があることが示された。
アプリの利用は「人の生活そのもの」であり、ユーザーの可処分所得時間、つまり「1日あたりの平均アプリ利用時間」(4.8時間~5.18時間)の中をデザインする行為が、アプリのデザインであると強調された。
高品質なアプリを実現するための大切な視点として、6つの要素が提唱された(1. 認知性、2. 利用状況性、3. 信頼性、4. ユーザビリティ、5. 情緒性、6. 持続性)。

今回はこの中から、認知性、利用状況性、情緒性、持続性の4点について詳しく解説された。
Google Playにあるアプリ数は150万を超えており、作っただけではユーザーに使ってもらえない。短く呼びやすい名称、記憶に残るロゴ、瞬間的に魅力が伝わるストア画面など、「入り口のデザイン」の品質が重要である。
アプリは人間の生活に密接に関与するため、機能が充実していても明確に使われる状況をデザインする必要がある。従来のペルソナ手法には限界があり、属性ではなくユースケース(状況や行動)でユーザーを捉え、「主なケース」「レアケース」「クリティカルケース」といったレベル分けでシナリオ設計をすることが、QA観点のテストケース設計にも相性が良い。
数値化が難しい要素であるが、競合アプリが山のようにある中で、触っていて心地よいアニメーションやレスポンスの滑らかさ、遊び心、アプリの世界観が、ユーザーの感情を呼び起こし、再利用の決め手となる(Duolingo の例が紹介された)。
iPhone登場から20年も経たないうちにインフラ環境や技術(AIなど)は劇的に進化しており、品質基準自体もすぐに変化しなければならない。良い品質を維持するためには、プラットフォーマーの動向(WWDC / Google IO)を追うことや、自分が触らないアプリを試すなど、常に学び続ける姿勢が不可欠である。
結論として、AIの誕生により開発が容易になるほど、品質を左右する差別化要因はデザイン、細部へのこだわりになると締めくくられた。
アプリのUXの重要性について理解が得られた。アプリの品質を考える上で、個々のユーザーの想定と、ユーザーの生活の中でいつどのように使うのか、という「使い方のデザイン」が重要であると理解した。自分のアプリの使い方を振り返ると、納得できる点が多かった。
また、アプリの品質を考える上で、講演で示された6つの視点は、非常に重要であると思う。かつ、これらは、開発が開始してから考えたのでは遅く、設計を始める前から考える必要がある点が印象的だった。さらに、アプリの品質を考える上で、リリース後の利用状況、プラットフォーマーの動向などをモニタリングし続ける必要があると思った。
このセッションでは、専門性の高いユーザーを対象とした業務アプリケーション(SaaS会計ソフト)のUI設計における課題と具体的な取り組みについて紹介された。
ユーザビリティは、ISO 9241-210やJIS Z 8521:2020に基づき、特定のユーザーが特定の利用状況において目標を達成する度合いと定義される。業務アプリケーションにおいては、ユーザーと業務(特定の文脈)を知らない限り、使いやすさの設計は「妄想」になってしまうため、業務理解が設計の第一歩とされた。
従来のペルソナ手法は、設計者の都合で伸縮自在な「ゴムのユーザー」になりがちであり、カスタマージャーニーマップ(CJM)は購買シナリオに焦点が当たるため不十分である。
そこで、ビジネス上の注力セグメントに基づきターゲットユーザーのパターンを定義し、情報を集める。情報収集は、書籍や社内の有識者からのヒアリング(担当者の「感覚としての経験値」を引き出す)から始め、その後、現場での業務観察(エスノグラフィを応用したリサーチ)へと進められる。
現場での業務観察は、画面外の業務環境(デスク上の配置、キーボードの種類、紙と画面のやり取り)を知り、「なぜこの機能が必要なのか」という設計の意図(WHY)を発見するために重要である。 とくに記帳業務においては、「入力はリズム」であり、ユーザーは資料を見て、ほとんど画面を見ずにテンポよく入力していることが判明した。このため、マウス操作なくテンキーで完結できることや、タブやエンターでのフォーム移動といった「当たり前品質」が、プロユーザーにとっての最重要要求となる。

この講演ではいくつかの知見が得られた。まず、ドメイン独自の「当たり前品質」の重要性、そして文脈を的確に把握することの重要性を理解した。そのために、ユーザーの使い方を近くで観察するなど、徹底的に観察することの重要性を理解した。
「業務のマニアになれ」というのは刺さるフレーズであった。この講演では、「ユーザーが目的を達成する上で重要視していることは何か?」を追求していた。会計事務所職員がすばやく入力するために、デスク上の物の配置はどうなっているか、どのようなキーボードをどのように使っているのか、リズムよく入力できることなどを観察し、そこからデザインやユーザビリティを検討した様子を紹介されていた。
QAが開発者、デザイナーなどと方向性を合わせるための取り組みも参考になった。たとえば、用語の定義(「体験」「業務」など)を明確にすること、業務内容に対して有識者にヒアリングした結果を表形式でまとめること、実例マッピングで具体的な事例に対して議論することなどが紹介されていた。
「仕様が正しい」だけではなく、「ユーザーが、何を望んで、なぜこのように利用しているか」という意識をもっと持つ必要性を感じた。
このセッションでは、同社が提供するハードウェアとソフトウェアが融合したサービス(スマートロックなど)のUX改善において、一次体験を起点とすることの重要性と具体的な取り組みについて解説された。
品質の高いプロダクトとは、「正しく動く」ことに加え、「良い体験」を兼ね備えている必要がある。プロダクトの体験を良くするためには、ユーザーを理解することが不可欠であり、体験の良し悪しは、特別なスキルがなくても、プロダクトを実際に使ってみれば誰にでもわかるとされている。この「実際に使ってみたり現場で体験すること」が一次体験であり、これによりユーザーに共感することが可能となる。
ビットキーでは、ユーザーに共感するために、以下の3つの方法を組み合わせている。
一次体験を通じてユーザーに共感し、不安や課題を発見することで、具体的な改善に繋げた事例が紹介された。

本講演は、「UXを向上させるためにQAがどのように関わっているか?」という点が非常に印象的であった。プロダクトの品質は、「正しく動く」だけではなく、「良い体験」を備える必要があることが理解できた。また、「ユーザー体験の向上」は、QAや開発者のみではなく、関係するすべてのメンバーが一丸となって取り組む必要性を理解した。
本講演は、ユーザーの使い方を想像するだけではなく、実際に行動している点が印象深い。QAメンバーがユーザー体験を理解・改善するために、スマートロックの物件に1か月入居する、という事例を紹介している。実際に体験することで、ユーザーが不安に思う点や課題を抽出していた。ここまで実施している事例ははじめて聞いたので衝撃的だった。
UXについて、いろいろな視点から考えさせる内容であったと感じた。
今回の講演内容で、UXと品質について、より深く理解できたと思う。「品質はユーザーの満足度」と考えていたが、UXが品質に大きく影響してきており、さらに今後も大きくなっていくと考えられる。
現在、開発やテストで、生成系AIが利用されつつある。指示した通りにコーディングしたり、仕様やコードベースに対してテストケースを作成したりテストを実行したりすることは可能になりつつある。しかし、UXはユーザーが人である限り、人が考えたり、判断するところは多くなるのだと考えている。自動化で効率化した工数は、こうした人にしかできない作業や判断に向けていくことをもっと考える必要があるだろうと考えた。
懇親会では、おいしい新潟の料理で会食を楽しみつつ、参加者同士で開発や品質について歓談や議論を行った。


また、懇親会の中でライトニングトークも行われた。筆者を含む9人の参加者がトークを展開した。トークの参加者には、特製コルク・コースターが配布された。

大変楽しく有益な時間であった。
記:鈴木 昭吾(株式会社マネーフォワード)