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イベント報告
ソフトウェアテストシンポジウム 2025 東海

2025年12月5日(金) 現地開催 + オンライン開催

ソフトウェアテストシンポジウム 2025 東海

はじめに

当イベントは 12月5日、愛知県刈谷市にてハイブリッド形式で開催された。現地開催は2019年以来とのことである。

今回は「『組込み×自動化』の現状、そして未来」をテーマに、2018年のオフライン開催のテーマ「組込み×自動化×アジャイル」を再確認し、組込み自動化、そして未来について議論していきたいと司会にて語られた。続けて2018年オフライン開催の際のユーモアあふれる様子も交えて司会は進行した。今年は2018年のようなコスチュームは無かったが、ユーモアは十分伝わるオープニングであった。

また、参加者の内訳が共有され、製品やサービスは組込み系が半数以上であること、ソフトウェアテストに関わった年数は10年以上が70%と圧倒的に多いことが発表された。

最後に、今後のJaSSTについて、一番大きいJaSSTであるJaSST'26 Tokyoの開催の紹介、及び参加を促すメッセージをもってオープニングが締めくくられた。

基調講演
「自動テストの未来を拓く思考の羅針盤」
山口 鉄平 氏(LayerX)

セッション概要

山口氏は、自身の思考の変遷を、自身のキャリアを具体例にしつつ段階的に述べた。問いを立て、その答えから仮説を立て、問いを変化させることを例示した。このような「問いを立てる」「観察する」「仮説を立てる」ということが本講演では繰り返し語られた。

自動テストの現在についてはソフトウェアテスト自動化カンファレンスのアンケート結果より自動化経験の無い人は減少してきており、開発スタイルについても反復的な開発が増加傾向にあるとのことであった。また、各テストプロセスにおける自動化の現状は、実装や実行は自動化が進むものの、計画や分析など全部を自動化することは難しいのではないかとの見通しが語られた。自動化の重心は作業から判断に移るのではないかとの見通しも併せて語られた。山口氏は、自動テストの課題の本質について「技術は豊かになってきたが技術を導入する前に課題の後ろに何があるかを考えるのが重要」と述べた。

次に山口氏は、問題発見と改善について語った。問題点(痛み)をブレイクダウンする際の見方に書籍の内容を用いたりするアイデアなど、問いを立て段階的に考える具体例が紹介された。

更にAIが変える自動テストの未来が、AIの得意苦手を踏まえつつ語られた。AIについても人や組織がどういう振る舞いを持ってどういう課題を持っているかが重要であることが示された。

最後に、自動テストの未来を拓くのは技術だが技術そのものではなく、未来を拓くのは「問いを立てて、学び続けるための思考の羅針盤」との言葉で本講演は締められた。

筆者感想

技術を使用することだけではなく、その理由を考えて問いを立てることの重要性を感じた。山口氏の実際の経験から思考の変遷が語られるのが分かりやすく、テーマに感情移入することができた。

実際の改善や仕組みを考える際に、書籍や既に考えられたものを使用していくという点にハッと気づかされた。今まで自分が本を読むときにその視点を持てていたか振り返らざるを得なかった。自信は無い。今回の講演は、イベントに参加することや本を読むことは自分の課題・解決策の引き出しを増やすためであると腹落ちする良い機会になった。

今回聴講し、自分の現場にはどういう痛みがあり、それに対して何が原因かという問いを立て、解決への一歩を試してみるのが大事と感じた。現場の痛みは無数にある。今回得た考え方を用いて問いを立て、次にこのテーマが議論される際には一つでも解決できているようにしたい。

特別講演
「モデルベースドテストによるテスト設計の自動化~組込みの事例を添えて~」
須原 秀敏 氏(ベリサーブ)

セッション概要

須原氏はまずモデルベースドテスト(以下MBT)の概要について触れ、モデルは特別なものではないこと、普段実施していることを言語化することで実現できると述べた。MBTは複数の定義があることを例示しつつ、MBTはテストベースをルールベースで機械的に捉える技術と考えていると須原氏は語った。自然言語でもMBTを表せる例として、EARS記法が紹介された。要は形式知化し、誰が作成しても同じテストケースが作成できるのが重要とのことであった。

須原氏は何故MBTなのかを自身がテスト担当者であったときの経験を交えて説明した。現場エンジニア・テストマネージャー・マネジメント層にとってMBTがどのようなメリットをもたらすかも経験談を交えて語った。

その後、MBTのプロセスがPFD図を用いて紹介され、テスト戦略から「モデリングガイド」「MBTパターン」を導く様子が語られた。MBTパターンとはMBTモデルの構造や特性を基にテストケースを生成するロジックのことであり、テスト設計技法とニアリーイコールである。ここでも、テストケース作成作業が機械化できることや、説明・改善において情報の濃度を高めると確認箇所が減少し作業負担が軽減されるメリットが語られた。

最後に須原氏は、どこから第一歩を始めるかに言及し、各担当それぞれの目線でペインポイントの解決策としてMBTの使用を検討すると良いと述べた。

筆者感想

須原氏がMBTによって解決したいと述べた課題が自分の現在感じている課題に非常に近く、ぜひ導入していきたいと感じた。今回の講演はMBTの方法論そのものより、MBTを導入することによってどのようなメリットがあるかに重点が置かれて語られたのが興味深かった。語られたメリットによって、自分がMBTを導入したときに解決できる課題を具体的にイメージすることができた。モデルの普及について課題を感じるので、まず自分自身がモデルを恐れず、積極的に使用していきたいと感じた。

パネルディスカッション/SIG/チュートリアルの並行セッション

特別講演後は、3つのセッションが並行して行われた。筆者はSIG(Special Interest Group)に参加した。筆者が参加したセッションについてレポートする。

SIG
「組込みソフトウェアテスト:次の一歩につながるアイデア共有会」
森 貴彦 氏(組込みCI研究WG)
林 宏昌 氏(組込みCI研究WG)
喜田 由伎於 氏(組込みCI研究WG)
浅野 正義 氏(組込みCI研究WG)

セッション概要

参加者数名が各グループに分かれてディスカッションを行った。ディスカッションのテーマは「どのような所から自動化を始めたら良いか」「システムテスト自動化による資産の残し方」「テスト結果の再現性を見失っていないか」の3つであった。ディスカッション後、各グループで話し合った結果の発表が行われた。

筆者感想

自分が参加したグループは全員が組込み系業務であった。ディスカッションでそれぞれの課題を出すと、扱うドメインは異なっていても共通する課題があることが興味深かった。また、自動化の始め方、資産の残し方について他社の事例を伺えたのが学びになった。自身では思いつかない内容も多く、改善のヒントを得られたと感じた。

筆者感想(全体)

参加者・実行委員の方が熱意を持ってイベントを作っていることが伝わってきた。開始前に活発に会話が交わされていた様子が印象に残っている。また、JaSST Tokaiの特徴である「組込み系の参加者が多い」という点において、筆者も組込み系であるため、組込み系の方とたくさん会話できたことが大変刺激的であった。

基調講演・特別講演・SIGを通して筆者が感じたことは、問題を放置せず常に考え問いを立て観察し行動することが大事ということである。

情報交換会でも多くの方と話すことができ、自分の視野を広げる良い機会となった。講演者・実行委員の皆様・参加者の皆様への感謝でこのレポートを締めたい。

記:山根 寿子

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