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2025年3月26日(木) - 27日(金) 現地開催 + オンライン開催
2025年のJaSST Tokyoは、黄砂の襲来など、不安な要素があったが、気温も暖かく、さわやかな天気で迎えることができた。
今年度は「TODAホール&カンファレンス東京」という素晴らしい場所で開催された。
スタッフの方や音響・撮影の設備など、さすがJaSST Tokyoと感じられるような充実さであった。
実行委員長の片山氏によるオープニングの挨拶では、2025年のASTERの活動について案内があり、ソフトウェアテストの振興活動の状況について知ることができた。
この場でしか聞けないような素晴らしい活動がいくつもあり、「自分自身も貢献できる活動があるのではないか」と考えることができた。
THE AI BRIEFINGというタイトルで、「AIとは何か」「AIの潜在的な可能性」についての講演であった。
本発表におけるAIというのは、知識が人間の脳から離れて、コンピューターに格納されたことが始まりだという。
AIは入力に対して決まった結果を返す決定論的な従来のソフトウェアとは異なり、人間の柔軟な働きを模倣し、学習を特徴とする。
AIはデータプールが重要であるとし、QAはデータに着目するべきだと主張した。
これらのデータプールを活用することで、さまざまな分野でのAI活用が考えられ、実際に行なわれている。
「生成AI」がトレンドとなっている現在、AIが過去の技術の延長線上にあることを知ることができた。
AIの活用にはポジティブな側面とネガティブな側面の両方があり、それらを理解したうえで、より良い未来のために活用する必要があると感じた。
QAとして、エンドユーザーの利益だけではなく、AI活用における倫理や公益性を考慮し、品質を捉え直す必要があると感じた。
赤﨑氏はスクラムチームで開発しており、品質に対する不安や価値観の相違を感じていた。
その状況を改善するために、忍者式テストを参考にして断続的にリグレッションテストを行なう手裏剣テストや、「ソフトウェアテストを改善する50のアイデア」を参考にした理想の品質候補をともに作成する対話などの取り組みを行なった。
これらの施策を通じて、「アウトプットに触れること」と「対話すること」が不安解消に効果的であることを発見した。
アウトプットに対する対話は、お互いに対して尊敬のチャンスを生み出し、チームの協力を促進し、結果としてチームの自信を高めるという結論に至った。
赤崎氏は、テストとQAを通じてチーム全体を考慮し、自身の行動によってチームの不安を解消しようと試みた。
このような取り組みは、理想的な「アジャイルQA」のありかたではないだろうか。
発表では、抽象化された方法論などに終始せず、自分自身の言葉や感情を素朴に表現しながら、具体的な取り組みが紹介されていた。
発表中のDiscordでも「やりたいことが出てきた」といった前向きなコメントが寄せられており、これがJaSST Tokyoで話されることの意義であると感じた。
赤崎氏の人柄と信頼が、このような取り組みを成功させたという意見もあった。
それらを眺めながら筆者は、自分は信頼を得られるふるまいや人柄を出せているのだろうか、と身をつまされる思いになったのだった。
粟田氏のチームにはテストやQAの専門性を持ったエンジニアがいなかった。
全社的な方針として、「スレッチなビジネス目標に全力でフォーカス」を掲げるなかで、品質に関する課題が顕著になっていた。
その状況下で、書籍「LEADING QUALITY」で紹介されている「品質ナラティブ」に出会った。
品質ナラティブとは、品質に関係するチームの認識を言語化するものだ。
こうした活動をするなかで、以下の取り組みが行なわれた。
これらを進めた結果、むしろ不安として顕在化してしまったという。
そういった状況のなかで、コスト・価値・リスクを正しく評価して認識を揃え、不安をチームで共有し、少しずつ成長していった。
ログラスのエンジニアは、テストやQAの専門家がチームにいなくても、これらのプラクティスを実践した。
これらの活動が自律的に行なわれることがまず、テストの専門家として嬉しいことであり、そういった品質文化を醸成したログラスから学ぶべき点は多いと感じた。
現在はFASTという比較的新しい手法を取り入れており、それらを取り入れるなかでの新しい・自律的なQAのあり方について今後も期待したい。
古畑氏はエンジニアには2種類存在すると述べている。エンジニアとして継続的に成長する「輝き続ける人」とそうではない「残念な人」だ。
古畑氏はこの2者の違いは「マインドセット」にあると述べている。
成長するエンジニアのマインドセットとして古畑氏は以下の5つの項目を取り上げた。
成長するためにはただ単に知識を「お勉強」するだけでなく、実際の業務で問題解決に取り組むことが必要だと主張している。
これらのマインドセットに着目した人材教育は目新しいものでなく、過去の会社経営や松下村塾でも実際に扱っていた。
これらのマインドセットを持つエンジニアが増えることで、これからの日本は明るいと締めくくり、本講演は終了した。
自らの挫折と、そこから学び、成長することについて古畑氏のリアルな啓示を聞くことができた。
エンジニアの成長にはマインドセットが重要であるという点に深く共感した。
今回の発表を元に、私自身も日々精進が必要であると改めて決意した。
筆者は今回はじめてJaSST Tokyoに現地参加したが、いわゆる「廊下」の体験が素晴らしかった。
「廊下」とはセッションの合間に参加者同士やスピーカーに声を掛け合い、セッションについて意見交換をすることを指す。
30分というセッションごとの時間感覚も絶妙で、これらの時間設定が「廊下」での交流に繋がったと感じた。
今回のJaSST TokyoはDiscordによるコミュニケーションが行なわれていた。
「セッションのこの部分について詳しく知りたいです。」や、「このセッションの考え方は、ここで活用できると思いました。」など、さまざまな質問や意見が飛び交い、これらすべてがカンファレンスの楽しさに繋がっていた。
発表者の方に「よかった」「見ました」と伝えるようなコミュニケーションはたやすいものの、これらは発表者の方にとって、かけがえのない思い出になる良い体験だと考える。
そのような体験が促進される「廊下」やDiscordが導入されたことは、非常に意義深く、今後もこのような方向性に期待したい。
一方で、Discordでは発表に対して批判的なコメントが投稿されることもあった。
筆者は批判的な意見が出ることに対して賛成の立場だが、本来対面で話していたら相手に寄り添えていたであろう批判や質問が、テキストだと「怖いコミュニケーション」になってしまうのではないかと危惧した。
また、これらの表現が公の場でされることで、第三者が「界隈の怖さ」として認識する可能性もあると感じた。
オンラインとオフラインが共存するカンファレンスにおいて、コミュニケーションの設計をどうしていくかは今後の課題だと思っている。
記:山下友輔(testingOsaka)