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イベント報告
 ソフトウェアテストシンポジウム 2026 東北

2026年5月29日(金) エル・パーク仙台開催

ソフトウェアテストシンポジウム 2026 東北

はじめに

今回のJaSST'26 Tohokuは、2026年5月29日にエル・パーク仙台で開催された。会場は広く、多くの参加者でにぎわっていた。前方左側のスクリーンには常時、Xで「#jassttohoku」のついた最新の投稿が表示されており、セッション中も参加者のリアルタイムな反応や意見が飛び交う、熱気のある雰囲気が印象的であった。

今回のテーマは「生成AIと歩むテスト設計〜AIはもう1人の仲間〜」である。生成AIをテスト設計やQA活動にどのように取り入れるかが主に扱われた。

本レポートでは、各セッションの概要と筆者が得た気づきをまとめる。

オープニング

概要

当イベントは、実行委員長の真鍋俊之氏によるオープニングの挨拶から始まった。真鍋氏は、参加者にとって多くの学びがある1日にしてほしいと呼びかけた。

また、JaSSTとは何か、JaSST Tohokuとは何かについて生成AIのGeminiに質問して得られた回答を紹介した。Geminiは、JaSSTの歴史に加え、今回のJaSST Tohokuの開催日や会場まで正確に提示していた。その情報収集能力の高さから、近年の生成AIの進化を示す例として紹介された。

こうしたAIの進化を踏まえ、改めて「AIはもう1人の仲間」を強調し、当イベントが参加者にとって今後のAI活用に向けた一歩を踏み出すきっかけになればと語った。

筆者感想

GeminiがJaSSTの歴史だけでなく開催日や会場まで答えていたことに、驚きを感じた。普段から生成AIを使っていても、イベントの導入で実例として見せられると、その進化の速さを改めて実感させられた。同時に、「ここまで進化しているAIに対して『もう1人の仲間』としてどう関わっていくべきか」という今回のテーマの重要性を再認識した。そして、AIとの協働におけるQAの役割について深い知見を得ることを目的として本イベントに臨んだ。

S1)「AI×QAの羅針盤」と「ハーネスエンジニアリング」で考えるAI駆動開発におけるQAの貢献
講演者:松木 晋祐(ベリサーブ 執行役員 研究開発部長 / AIQVE ONE 取締役CTO)

概要

松木氏の講演は、AIが開発やQAに深く入り込む時代に、QAはどのように貢献できるのかを整理するものであった。AIはテスト設計や自動化を支援できる。しかし、AIの出力をそのまま受け取るだけでは、なぜそのテストが必要なのか、何を保証しているのかの説明責任を持ちにくくなる。そこで松木氏は、人間がAIをどう使い、どう評価するかを設計する必要があると話した。

講演内では、QA活動をAIで支援するAI4QA、AIそのものを品質保証するQA4AI、AI駆動開発に対するQAなど、AIとQAの関係が複数の観点から整理された。特に、テストベースから直接テストケースを作るのではなく、対象の振る舞い、データモデル、カバレッジ基準などを段階的に整理し、人間が説明できる形にすることが重要だと説明した。

また、AIを安全に動かすための「ハーネスエンジニアリング」も紹介された。AIが開発を担う場面が増えるほど、QAはテストを実行するだけでなく、AIの出力を評価し、AIが品質を損なわないように制御する役割へ広がるという見通しが示された。

筆者感想

AIを効果的に活用するためには、単に知識や理解があるだけでは足りず、AIの出力を説明できるのか、正しく評価できるのかが問われるのだと認識を改めた。

特に印象に残ったのは「AIに質問するときは、軽く、雑に聞いた方がよい」という話だ。現在のAIは、自律的な情報収集や、ユーザーの質問意図や求める答えを推論する能力が非常に高くなっている。そのため、あえて長い文章ではなく、短い文章で端的に質問した方がよい結果が返ってくることがあると述べていた。

AIをより効果的に活用する上で、7Rプロンプトなどの「プロンプトの構造化」は重要な手法である。一方で、日常のちょっとした質問や情報整理では、プロンプト作成にかかる時間的コストが見合わない場合もある。そこで、特定のタスクに特化したAIエージェントには構造化したプロンプトを用いる。思考の整理やアイデアのブラッシュアップでは最小限の指示にとどめる。このように状況に応じて使い分けることで、AIとの向き合い方はよりスマートになると確信した。

S2)事例発表

S2-1)組織で動かす AInize QA - AIを束ねる品質ハーネスの実装
講演者:小島 大周(メドレー リードQAエンジニア / AI×QA推進)
概要

小島氏は、QA組織でAIを活用するために、個人の工夫ではなく、ナレッジやレビューの仕組みを組織として整える取り組みを紹介した。AIは大量の成果物を出せるが、人間がすべてを同じ粒度で確認することは難しい。そのため、AIに任せる作業と人間が責任を持つ判断を分ける必要があると話した。

筆者感想

「ナレッジは使うほど育つ」という指摘は、組織的なAI推進において極めて本質的である。個人の持つ小さなプロンプトの工夫や知見であっても、手元に抱え込まず、まずはオープンにすることが重要である。そうした知見を組織全体で活用するプロセスそのものが、結果として強力な組織アセットになる。未完成の知見であっても恐れず周囲に共有し、チームを巻き込んでいく姿勢を意識していきたい。

S2-2)AIに気持ちよく働いていただく技術 - 「お願い」で終わらせない、ハーネスエンジニアリングの実践
講演者:末村 拓也(Ubie Software Engineer in Test)
概要

末村氏は、AIエージェントを安全に働かせるには、プロンプトで指示、注意するだけでは不十分であり、仕組みで制御する必要性を訴えた。AIエージェントは、ファイル編集や外部サービス連携などを自律的に実行できるようになっている。その一方で、権限を持たせると、重要ファイルの削除、機密情報の流出といった事故につながる可能性があると警鐘を鳴らした。

筆者感想

「お願い」ではAIを止められない、という話に深く納得した。人間の注意やプロンプトの工夫に頼るだけでは、リスクをゼロにはできない。重要なのは、車の運転におけるガードレールのように、万が一AIが誤った挙動をしても最悪の事態を防げる「仕組みによる制御」の視点であり、これこそが今後のQAに求められる技術だと認識を改めた。

S2-3)内製開発組織におけるQAと生成AIとの関わり方
講演者:阿部 将太郎(東急 URBAN HACKS QAエンジニア)
概要

阿部氏は、内製開発組織で生成AIを現場に根付かせるためのアプローチを紹介した。生成AIは便利なツールである一方、アカウントを配るだけでは組織的な活用にはつながらない。そこで東急グループでは、職種を問わず使える環境を整え、eラーニングやポータルサイトを通じて、日常業務の中で少しずつ活用できるようにしていると話した。

筆者感想

「人が考えるべきことにリソースを使うためにAIを活用する」「日常業務を少しずつ置き換えていく」という考え方が非常に本質的だと感じた。一気にすべてをAI化しようとするとハードルが高いが、「仕様書の初期整理」や「ドキュメントの誤字脱字チェック」といった定型タスクなら今すぐ変えられる。そうした作業をAIに肩代わりしてもらうことで、時間とエネルギーを生み出せる。その余力を「この仕様で本当にユーザーは満足するか?」といった、人間が頭を悩ませて考えるべきコア業務に充てる。これこそが、現場で本当に実践すべきAIとの歩み方だと実感した。

S3)ライトニングトークス(スポンサーセッション1)

概要

スポンサーセッション1では、AIをテスト設計に使う具体的な取り組みや、導入に向けた組織の姿勢について5本の発表が行われた。各社共通して、AIによる効率化への期待がある一方で、人間の意図や確認がなければ品質の担保には至らないという問題意識が共有された。

筆者感想

ライトニングトークスは短時間ながら、生成AIへの期待と不安の両方が詰まっていたように思う。生成AIは便利なツールである一方、ただ使うのではなく、使いこなす重要性や、そうしたツールを活用できる人材の育成は、この先も長く考えていく必要があると感じた。

S4)ワークショップ

概要

ワークショップは、AIが作ったテストケースをそのまま受け取るのではなく、人間がどのようにレビューし、責任を持てる形にするかを体験する内容であった。ストップウォッチアプリを題材とし、AIでテストケースを一括生成した場合と、テスト設計工程の各ステップで分けて生成した場合の違いを比較した。

筆者感想

一括生成されたテストケースは一見よくできているように思えたが、実は「不明な仕様を勝手に補完している」といった罠があり、後からのレビューでそれを見抜く難しさを体感した。具体的な仕様の補完の例として、明記されていない「タイマーリセット後の表示について」が挙げられる。仕様書に例示されていた「00:10:00」という画像を、AIが「リセット時の初期値」であると勝手に解釈し、仕様を整理してしまっていたのである。人間であれば、その表示は初期値ではなく、あくまで表示例だと考えられる。しかし、AIはそれを初期値の表示だと解釈してしまう場合がある。この点は、AIに完全に任せることができない理由の1つだと実感した。

また、私が気づいた仕様の抜け漏れが、隣の参加者とほぼ一致していたのも面白い現象であった。中間成果物がないことで、レビューの視点に偏りが生まれてしまう危険性を強く感じた。このことから、プロセスの見えない結果だけを後からレビューすることには限界があると気づかされた。一方で、作業を適切に分解し、AIと段階的にキャッチボールしながら中間成果物を作っていくアプローチの重要性も学ぶことができた。

S5)ライトニングトークス(スポンサーセッション2)

概要

スポンサーセッション2では、AI時代のQAのあり方に加え、品質基準やJSTQBなどの学習の重要性が扱われた。AIを使うことで作業は速くなるが、何が正しい出力なのかを判断するには、人間側にテストの基礎知識や品質に関する共通言語(基準)が必要である、という点が各社の視点から提示された。

筆者感想

今までは、つい「最新のAIツールをどう業務で使いこなすか」ばかりに目が向いていた。しかし、AIを使えば何でもできるように見える時代だからこそ、その出力を評価するために、人間側にJSTQBなどを通じて身につけた「確固たる品質基準」が必要なのだと気づかされた。AI時代だからこそ、もう一度テストの基礎を自分に叩き込もうと、身が引き締まる思いであった。

S6)クロージング

概要

クロージングでは、副実行委員長の浦山さつき氏からイベント全体の振り返りが行われた。「生成AIと歩むテスト設計〜AIはもう1人の仲間〜」というテーマのもとで行われた基調講演、事例紹介、ライトニングトークス、ワークショップについて振り返った。各登壇者、参加者へ改めて感謝を述べ、会場全体から大きな拍手が送られた。

全体を通しての感想

初のJaSST参加は、「作業をAIに置き換えて効率化する」と考えていた自分自身の足元を見つめ直す、大変実りの多い1日となった。これまではAIでの作業効率化ばかりに目が向きがちであったが、各セッションを通じて、AIを現場に組み込むほど、「人間の明確な意図」「事前の仕様整理」「システム的な制御の仕組み」といった、QAとしての本質的な土台が厳しく問われるのだと認識が大きく変わった。

AI時代のQA活動において真に求められるのは、ツールのテクニックではなく、出力を正しく評価するためのテストの基礎知識である。この学びを活かし、まずは日々のタスク整理や仕様の初期分析から実践を重ねていきたい。そして、AIを単なる効率化ツールではなく、共に価値を創出するパートナーとして活用しながら、AI時代に求められるQAエンジニアを目指していきたい。

記:大塚功太郎

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